能楽留守文様蒔絵香箪笥(のうがくるすもようまきえこうたんす) [目録を見る] [ 宝物解説へ ]
香道具が大名婚礼調度の一つに加えられるのは近世初頭であるが、時代が下がるにつれてゲーム的な要素が強くなる。やがて本来の香道具のほかにもゲーム用小道具が必要になり種類も多くなったので、道具一式を揃えて香箱に納めるようになり、やがて持ち運びに便利な香箪笥が開発された。
本資料は、前面両開き扉の奥に6個の引出をつけて香道具を入れる。装飾は鉄刀木(タガヤサン)透明下地の木地蒔絵で、金銀高肉蒔絵、同平蒔絵、截金(きりかね)、付描き、針描き、蒔ぼかしなど多彩な技法で模様が施されている。
物語の主人公を描かずに、持ち物だけを置くことによってその存在を暗示する工芸独特の手法を「留守文様」というが、それを読み解くことも所有者の楽しみの一つであったと思われる。正面下部の酒壺、杯、柄杓は能の『猩々』、背面を飾る美保の松原から望む富士は『羽衣』を、側面には「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」の歌で有名な『伊勢物語』第9段三河国八橋の情景を描いている。
(高田克宏)
【参考文献】『高岡の名宝展』高岡市美術館,平成21年(2009)