解題・説明
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む。五月中ごろに至れば東風吹き海面穏やかなる時は釣り得るもの多し。六月に至りては沖合いもっとも穏やかにして海岸のみ激波起こる、これを碆東風と唱う。その節は魚磯辺に寄せ海岸を離るることおおよそ十丁以内にて釣るなり。七月頃は入れ吹きと唱え東風吹きて雨なく日和続く節は、鰹魚東游西泳して舟舷に近寄らざるゆえ、その躍る方を目指し舟を嚮〔むこ〕うて釣る、これを押し釣りという。八九月の頃は小西気と唱え西風吹く(釣りのためにはこの風を忌むなり)その節は多分に沖合いの暗礁あるいは島嶼の碆側に寄るなり、魚は大なるもの多し。
釣り餌を捕るは、鶏鳴の頃より沖合いの暗礁の側にて網を曳き、その餌魚は𩸕〔ハモ〕を最上とし、次はトロメン、ホニタレなり。釣り餌を捕ればすぐ沖合へ舟を出し生餌を海面へ振りまきこれを飼付けと唱え釣りを垂るるなり。また時としては餌床と唱え数万の鰹集聚し、鰯あるいは𩸕などを逐い集まることあり。あたかも網をもって曳きまとめたるもののごとし。これを張り玉と唱え、板網のごときものにてこれを掬い取りて餌となし、釣り垂るれば揚げるに閑なきほど釣るるなり。
鰹を釣るは、天気の模様、潮の往来はもちろんなれども
そのもっとも宜しとするは雨天にあらず晴天にあらず曇天にして、風少なく波穏やかなる時なり。また晴天より雨天をよしとす。釣りを垂れるは太陽の昇る時分を最上とし、夕景これにつぐ。日中はたいてい悪し。また夜中は釣りせず、潮は昇り潮と唱え西より東へ行く時大いによし。しかし場所にもよるなり。沖合いより地方〔じかた〕に向きたる潮を入れ潮と唱えこれもまたよし。地方より沖合へ向きたる潮は悪し。満潮の時七八合をよしという、満潮には魚の餌に付くものなればなり。また苦潮(にがしお)と唱え海面泥のごとく濁ることあり、この時釣りを垂るるも一喉だも得ることなし。
甲
ミソコ六十通目合一歩五厘
乙
十四通目合八分
丙
網波切リ目合一寸
丁
藻切リ目合一寸
第二号
第二号 其二
第三号
解説:鰹ノ釣餌ヲ捕ル図 其二・カツオ釣の餌魚の採取の様子を描いている。餌魚は朝早く沖合の暗礁の側で網を引いて獲る。キビナゴが最上で、その他ホウタレなどが用いられた。(愛媛県歴史文化博物館:井上淳)
解説:鰹釣ノ図・カツオ釣船については宝永3(1706)年の「大成郡録」に外海浦に3艘記されているが、約50年後の宝暦7(1757)年の「大成郡録」になると11艘に増えている。カツオの漁期は4月より10月までで、最盛期は6月より9月までの4カ月間である。釣り餌が獲れたら、すぐに沖合に船を出し、生き餌を海面に振りまく。これを餌付というが、中央で柄杓をもっている人物がその役を担っているのであろう。それと同時に前で3人、後ろで2人が釣り糸を垂れている。カツオを釣れる良い条件は、曇天の日で、風少なく、波静かな時であった。時間帯としては太陽の昇る時分が最も良く、夕方がこれに次ぐ。潮は昇り潮と言って、西から東に流れるときが一番良かった。(愛媛県歴史文化博物館:井上淳)
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