解題・説明
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日蓮宗総本山の身延山久遠寺の所蔵する「仁王経科註見聞私」に記された奥書です。この書籍は、実然という僧侶の著した仁王経の解説・注釈書を書写したものです。 写し取ったのは日蓮宗の僧・日叙で、この奥書には、書写が天文21年(1552)3月から5月にかけて、光琳房(群馬県伊勢崎市堀口町)にあった原本を借り、場所は光琳房および戦闘をさけて附近の利根川の中の「小島」に避難して書写したことなどが書かれています。 天文20年ころからの小田原北条氏による当地方への攻撃の様子が細かに記されていること、そして庶民たちは利根川の中の小島に小屋掛けをし、そこに数千人も籠もり、戦闘を避けていた様子を記す貴重な奥書です。 書写した日叙は後に久遠寺の法主となりました。小田原北条氏が関東管領上杉氏の拠点を攻めるという大攻防中の命がけの書写は、日叙がいかに実然の著書を学びたかったか、そしてそうした苦学を経た者が指導者となったことがわかります。
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