恵山貝塚の猪牙製首飾(市立函館博物館蔵)
北海道には交易用として熊、鹿、オットセイなどの毛皮や乾魚などの海産物があった。これらの産物のことは歴史時代になると記録に現われるが、宮城県あたりの弥生人と交流があったとすれば、これらの産物は珍重されたであろう。本州との交易があったことは、恵山式土器に伴出した猪(いのしし)の牙で作った首飾りの発見によって明確にされた。ニッポンイノシシは関東から東北地方に生息するが、津軽海峡をへだてた北海道にはいない。この牙製首飾りは湾曲した雄の牙の両端に穴をあけ、左右1対を首飾りにしたもので、1本の長さが12.5センチメートルもある見事なものである。これまでにも牙製垂飾品が何点か道南で出土しているが、いずれも短小なものである。猪が本州の縄文人に特殊な動物と考えられていたことは、岩木山麓など縄文後期の遺跡から猪の土偶がよく発見されることからもわかるが、北海道では恵山文化直前期である縄文晩期の遺跡から猪の土偶が出土しており、本州との交流は長く続いていたとみられる。
弥生人との交流があったことは、管玉や猪牙製首飾りだけでなく、土器などにも共通点があることによっても明らかであるが、道具や装身具には北海道の特色があり、土着の人たちが物質文化の一部を交易によって得ていただけで、弥生人が北海道に渡って来て文化を築き上げたとはいえない。この時代の民族については人類学的に研究が続けられているが、貝塚などから発見される人骨はアイヌ民族的特徴を有するものであることがわかってきた。熊を土器などに飾り付ける傾向は、今のところ、全国で北海道の恵山文化のみに限られており、アイヌ民族の起源に関する一面をもっているだけに、次の江別文化とどのようなかかわりがあるかという課題が残されている。