(4) 豊浦・大澗、女那川地区

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 豊浦・大澗地区は日浦地区のサンタロナカセに隣接し、やや入江となっている。汀線は護岸があるために干潮でも常に冠水している。一方、女那川地区の調査線1〜8に距岸30〜130メートル位の平磯が発達し、その上にはアカバギンナンソウ、エゾツノマタ、アカバ、マツモ、ツルツル、フジマツモなどが比較的多く生育している。図6−16、17に7、8月における両地区の海藻の現存量を示した。豊浦・大澗地区の生物調査点は189点で、このうち底質が砂底のために海藻が生育できなかったのは13点であった。したがってこの地区の砂底質を除く1平方メートル当りの現存量の単純平均値は2,269.5グラムであった。現存量の最高値は5線−125メートル地点(水深5.5メートル)で11、560グラムと主にマコンブにより得られた値であった。漁場全体を距岸距離ごとにみると、平均現存量以上を示すのは沖出し約200メートルまででおよそ2.65キログラム/平方メートル、それ以遠は1.57キログラム/平方メートルとなり、陸側の現存量がやや高かった。また、定線別に現存量をみると、ほとんど差を見出せないが1〜8線、すなわち日浦寄りの地区の平均現存量が約300グラムと若干高かった。
 女那川地区の生物調査地点は74点(このうち砂底質は14点)であり、砂底質を除く1平方メートル当りの単純平均現存量は1,869.1グラムであり、現存量の最高値は6線−150メートルで5、510グラム/平方メートル(水深6.5メートル)と主にガゴメとチガイソにより得られたが、豊浦・大澗地区の約1/2の値であった。距岸距離でみると、距岸100〜200メートルで平均値以上を示したのに対し、200メートル以遠はそれ以下の値であった。定線別には1〜9線までは1,552〜2,520.8グラム/平方メートル、10〜11線が約500グラム/平方メートルであった。この原因は前者が主に岩盤底で沖出しに張り出しているのに対し、後者は湾奥に位置し、砂底が岸近くまでに入り込んでいるためと思われる。
 図6−18は豊浦・大澗地区の調査地点を距岸300メートルまでに限って模式的に現存量を緑藻、褐藻、紅藻と顕花植物に分類して示したものである。緑藻植物はアナアオサが主な出現種類であり、分布領域も4〜7線と12、13線の距岸150メートル内にみられたが、平均現存量は1平方メートル当り3.2グラム(範囲0〜230グラム)と低い値であった。褐藻植物は広領域に分布し、平均現存量は2、008.8グラム/平方メートル(範囲0〜11、307グラム)と平均現存量2、480.9グラム/平方メートルの81.0パーセントを占め極めて高い値であった。紅藻植物のそれは334.9グラム/平方メートル(範囲0〜1、480グラム)と全体の13.5パーセントを占め、褐藻植物に次いで高く、分布域も類似していた。また、スガモは平均164.0グラム/平方メートル(0〜2、430グラム)であり、概して13〜15線にかけて沖まで生育している。砂底を除いた海藻の出現頻度をみると、99.2パーセント(118/119枠)に分布していた。さらに分類別にみると、緑藻植物は9.2パーセント(11/119枠)、褐藻植物は97.5パーセント(116/119枠)、紅藻植物は91.6パーセント(109/119枠)、スガモは21.0パーセント(25/119枠)となり褐藻植物の出現率の高さがわかる。このように距岸300メートルまでに限り海藻の出現率を旧恵山町の他地区と比較してみると、調査年は異なるものの古武井地区が95.4パーセント、日浦地区が89.1パーセント、恵山地区が88.8パーセントであったので、当地区の99.2パーセントは非常に高い値である。
 それではこの地区に生育していた海藻のうち出現頻度10パーセント以上に限り、優占順位をみたのが表6−12である。これからスジメ、チガイソとハケサキノコギリヒバが50パーセント以上で出現し、優占種とされ、大型有用海藻種であるガゴメが第4位、マコンブが第5位と続いた。ここで恵山町各地区で優占種であったハケサキノコギリヒバにかわつてスジメが第1位になったが、この種は1年生植物でありその年の環境条件、特に冬〜夏にかけての水温が低い場合に大量に発生することが知られている。この漁場の優占順位にもとづき有用種とスジメなどの6種について、距岸300メートルまでの水平分布模式図を図6−19に示した。これから分布領域を求めると、マコンブは37.0パーセント(44/119枠)、チガイソは68.1パーセント(81/119枠)、ガゴメは37.8パーセント(45/119枠)、スジメは63.0パーセント(75/119枠)、ハケサキノコギリヒバは69.7パーセント(83/119枠)となる。
 女那川地区を同様に距岸300メートルまでに限ってみると、全海藻の平均現存量は1,897.3グラム/平方メートルあったが、緑藻植物の出現はなく、褐藻植物は1,165.6グラム/平方メートル(61.4パーセント)、紅藻植物は640.1グラム/平方メートル(33.7パーセント)、顕花植物は91.6グラム/平方メートル(4.9パーセント)であった。これらの出現率をそれぞれみると、83.3パーセント、93.3パーセントと23.3パーセントとなり、紅藻植物の値が高かった。種類ごとの出現頻度をみて優占順位をみたのが表6−13である。これからハケサキノコギリヒバ、チガイソ、スジメが50パーセント以上で出現し、ガゴメが41.7パーセントで第4位、マコンブが23.3パーセントで第6位の出現順位であった。それでは距岸300メートルまでにマコンブ、チガイソ、ガゴメとスジメがどのように分布していたかを出現比率でみると、それぞれ全体の92.5、95.2、88.0、84.4パーセントとなり、チガイソ、マコンブ、ガゴメ、スジメの順位で陸側に分布し、距岸300メートルまでに生育領域をもつことが判る。なお、ミツイシコンブは第7線−150メートル(水深8メートル)に13本/平方メートルのみが出現したにすぎない。
 
〈文献1〉 野田隆史:津軽海峡の磯の生き物たち、北海道大学水産学部公開講座、平成10年度
〈文献2〉 安井 肇:津軽海峡の大型植物、北海道大学水産学部公開講座、平成10年度
〈文献3〉 水産生物2(教科書)、実教出版、平成2年