①小安の冷泉
タカヤシキ川の川口近くの波打際に、昔から冷泉が湧いており、ヤケド、切傷、ハレモノなどによく効くので、村の人々がこの冷泉を汲んで使ってたものだという。使った人々は「医者にかかるよりも治りが早かった」といっている。
この冷泉は炭酸泉であり、昔函館の高島某という医者が、この冷泉を使ってラムネを製造したことがある。
②原木の冷泉
原木のシンタ川右岸の道路ぶちの崖際に、昔から冷泉が湧いており、村人たちは「〓の湯っこ」と称し、ガンベ、ヒゼン、ハレモノを治すために使い、特効があったという。このあたりは〓水戸家の所有地なので「〓の湯っこ」と呼んだもので、患部につけると非常にシミタと老人たちが語っている。
冷泉の湧いている附近の崖に硫黄分を含んだ黄色な岩石が露出しているので硫黄泉と思われる。ここの波打際に近いところの海底にも、〓の湯と同じ冷泉が湧いているらしく、そのあたりが常に濁っているという。
この外カネシタの浜にも硫黄泉らしい冷泉が湧いており、戸井川の流域で黄銅鉱を堀った時の飯場のあった附近にも冷泉が湧いており、冷泉の流れている附近一帯が鉄錆色になっている。
戸井は那須火山脈が通っており、コブタからカネシタまでの海岸ぶちの岩石や地層の各所に溶岩流の痕跡があり、硫黄分を含んだ岩石が数ケ所に露出している。これは二、三千年以前の火山爆発の痕跡と思われる。
戸井の東方恵山周辺に数ケ所に温泉があり、西方には根崎、湯の川にも温泉があり、北方の陰海岸では川汲、磯谷、鹿部などに豊富な温泉が湧出している。又南方は津軽海峡を隔てた下北半島の下風呂、薬研、恐山、湯の川などにも昔から温泉が湧出している。
このように温泉脈に狭まれた戸井地域なので、温泉湧出の可能性があるものと思われる。