ウニ(ガゼ、ノナ)
方言でガゼ或はガンゼとよんでいる種類は和名をエゾバフンウニというものであり、ノナとよんでいる種類は和名をムラサキウニ又はキタムラサキウニというものである。ガゼは和名のように馬糞(ばふん)に似た色をしており、ノナは黒紫(こくし)色の長い刺(とげ)をもっている。ノナという方言は蝦夷語である。ガゼもノナも禁漁期間を設け、戸井では三、四月に一斉にとる。価格が高く、寿司の材料になったり、ネリウニなどに加工され、高級品として珍重されている。
エゾムラサキウニ(方言ノナ)
アワビ
アワビは暖流が沿岸を洗う海域に棲息している。ワカメも暖流の流れている沿岸に繁殖している。したがってアワビとワカメの分布は一致している。北海道のアワビ、ワカメの北限は、日本海岸も太平洋岸も暖流黒潮の終点海域と一致している。太平洋岸では胆振近海まで、日本海岸は、積丹(しゃこたん)海域を更に北上して、利尻、礼文がアワビ、ワカメの北限である。暖流が通過する海域でも、沿岸を洗う度合によって、アワビ、ワカメの分布に差がある。局地的にはアワビ、ワカメが全然分布していない沿岸もある。このようなところは、暖流が沿岸に達していないという証拠である。アワビとワカメの産額を統計で比較してみると、ワカメの産額の多いところはアワビの産額も多いということがわかる。アワビとワカメは水温の低い海では育たないのである。これはムイの棲息海域と逆である。
ムイ(和名オオバンヒザラガイ)
ムイは稀により見当らないもので、経済価値のない海棲動物であるが、戸井のシンボル武井の島の伝説の主人公で、ムイといいばアワビを連想するくらいであり、戸井の海産動物の解説から落されないものである。ムイの和名はオオバンヒザラガイといい、寒流海域に棲息する動物で、いわば北の海の動物である。ムイのくわしい解説はムイの島の伝説の項で述べておいた。
ワタリガニ(ヘラガニ)
方言でヘラガニ、ガザミなどとよんでいるカニで、夏に砂地の沿岸に寄って来る。游泳用のヘラ型の水かきをもっているのでヘラガニとよばれるようになったのである。漁期も短かく漁獲量も少ないが、美味なカニである。
夏の夜、砂底の海に刺網をかけてとったり、子どもたちが海にもぐってとったりする。とれるのは浜町の沿岸である。
イガイ(ヒルカイ)
方言でヒルカイとよんでいるイガイは、沿岸の岩礁地帯の到るところに分布している。時々とって食用としているが、売るというところまではいっていない。
ホヤ
ホヤにはイガボヤ、アカボヤなどの種類があり、戸井では武井の島の南東約一二〇〇米沖にホヤ根と名づけられているところがあり、アカボヤがたくさん分布している。南部、津軽では昔から珍客に対する御馳走の一つに、ホヤの酢物(すもの)や塩からが用いられ、今でもこの慣習は続いている。菅江真澄の南部(下北)紀行の中にもホヤのことが書かれている。津軽や南部の殿様がホヤを好んだのであろうか。津軽、南部を旅行して、旅館に泊ると必ずといってもいいくらいホヤが出される。魚屋の店頭には、ホヤが並べられている。戸井では津軽、南部から移住した人々の子孫はホヤの食い方を知っているが、一般的にはホヤのつくり方、食い方を知らない人が多い。津軽、南部のホヤはイガボヤであるが、アカボヤも食用になる。戸井、大間間(かん)のフェリーボートが就航してから、戸井の人々は、下北へ行く度に、魚屋をさがしてホヤを買ってくるようになった。武井の島沖のホヤ根のアカボヤも戸井の人たちに食われる時代が来るものと思われる。
アサリとツブ
二枚貝の小さいものをすべてアサリといい、巻貝は大小にかかわらずすべてツブといっている。二枚貝は数種類あるが、売る程の数量はとれない。巻貝のうちで食用にしているものは方言でネネツブとよんでいるエゾボラとヒメエゾボラくらいのものである。エゾボラは多いが、多忙なため、これをとって商品にすることはまだ考えられていない。