産業振興計画

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 昭和三十四年頃ようやく椴法華村は財政の危機を乗り越えたが、今度は村の主産業である漁業が不振となりつつあり、早急に実施しなければならなかった漁船の新造・改造等は資金難のために、思うにまかせず漁港は未完成、せっかく漁獲した水産物も交通が不便なために鮮度が落ちたり、運搬費が高くつくなど、思ったほど利益を上げることが出来なかった。このようなわけでまたもや村財政は悪化の渕に立たされ、村民の家庭もまた経済不安が大きくなりつつあった。
 このような情勢下で村を中心として、漁業協同組合・農業委員会・開拓農協その他が協力し合い、椴法華村諸産業の基本計画を立て、昭和三十五年から昭和三十九年にかけ実行しようとしていた。
 次にこの時の計画の中から、村の中心産業について要約して記すことにする。
 
    自昭和三十五年度至昭和三十九年度
    農山漁村振興(昭和三十五年四月)
   基本計画書
      北海道亀田郡椴法華
      椴法華地域農山漁村振興協議会
  Ⅰ 地域の概況
   A 地域の概況及特質
   1 一般概況・地勢及び土地利用
     本村は渡島半島の東南部に位し太平洋に面し、面積二千四百九十一平方粁、戸数六百三十五戸、背後には海抜六百十七米の恵山があり全村山麓に接したる純漁村である。
   2 気候及び特質
     東及び北は太平洋に面し西及び南は恵山火山系による山麓に接している為最大積雪量一・五米、降雪期十二月-三月迄である。
     風向は二期分五夏は南南東が最も多く、冬は西北西及び北西が多い(昭和三十三年度調査)此の為四月より六月までの海霧が多く土質は主に火山灰地帯である。
   B 産業構成と地域経済交通その他
     恵山魚田を眼前にした純漁村であり、その主産物は、いか・昆布・目ぬき・鮫・鱈・鯳・鰮・〓・うに・小女子等である。函館市より五十余粁離れ唯一の交通機関は自動車であるが、道路の悪状況の為所要時間三時間を要し、交通不便な所である。よって村内の道路も最大幅員四米程度であり産物消流の阻害要因である。(中略)
  3 当村の漁業の占める生産高は下記のとおりであり他産業に比して優位にある。
    上記の通りであるが交通の不便による消流経費の増大、加工施設の不備による生産価値の低下、漁港の未完成等の諸条件により合せて沿岸漁業の衰退をまねいている。
  ※漁業阻害要因
   1 漁船漁業の不振。
   2 交通不便による消流経費高。
   3 資金導入不円滑のため漁船建改造・漁業施設導入・浅海増殖事業の不振。
   4 漁港の未完成。
  Ⅱ 振興の構想
   1 農林漁業振興の基本方針
   漁業
    凶漁現象は現在の技術段階では漁業生産につきものであるこの状態は本村のみならず道南漁業地域の全体の傾向で恒久性現象をおびているところにこの重大性がある。
    漁村安定対策樹立の作業過程において漁村経済の不振原因は、何かという事がしばしば論議されているが、その認識如何によって対策の方法が異っている。この原因分析は非常に困難な問題であって未だこれを裏づける、科学的総合基礎研究に基く資料は無いが強いて表現すれば、いか・昆布のみに生活を依存する慢性的凶漁と漁業人口の過剰、魚価の不安定等の併立という事になる。
    此の全く矛盾した二つの現象が包含されているところに漁村対策の複雑性がある地域漁業振興対策は漁業不振によって生活の安定をおびやかされている漁民の生活を早急に安定させる事がねらいであるので漁家経営の多角化せしめることが必要である。漁民は漁業により生計を樹てるが然し地先海面における漁業生産も最早質的変化を生じているので、増殖事業による資源の維持培養・漁協組の諸体勢の整備確立・沖合漁業之転換等が中心課題となるが、現実の問題として漁民の生活状態は早急に安定策を進めなければならない事態に来ているので、本質的に豊凶の変動の甚だしい漁業経営と生活の安定度の高い農畜産を兼業させることは原則的に良好であろうと考えられる。
    又漁家経済安定対策は極く身近な問題から一つづつ採り上げて実行に移してゆくことに本来の使命があるところに鑑み以下の事業を推進しようとするものであります。
   (1) 浅海増殖の推進
    地域漁民の生活の基盤は沿岸共同漁業権にその大半を依存しているので沿岸漁田の改良払張により海藻・根付魚等の増殖を図るため実施して来たが今後も適地適所の強化対策として積極的に浅海増殖事業を強力に実施する。
   (2) 共同施設の設置
    沿岸六粁余を持ち有・無動力漁船五百六十二隻を有する当村に漁船修理施設がなく修理の場合は二十二浬余を隔る函館港に回航修理を余儀なくされ漁業操業に多大の支障を生じているので漁船修理施設と共同船捲場の設置を推進したい。
    又地理的に陸の離島の如き地に在るため消流対策に万全を期する事は困難で地場処理に限定があり生産過剰の現象があり、それに対応する施設に乏しくせっかくの漁獲物を肥料として処理される場合もまま見受けられるので簡易冷蔵施設並びに共同作業施設を完成し、生産物の高度利用を図りたい。
   (3) 畜産の奨励
    有畜経営方針は当村として数年前より必然的に奨励実施されて来ており、小家畜特に緬羊・鶏の如きを導入し衣食の緩和を図ると共に副業収入の増大により漁家経済の安定策としたい。
   (4) 漁村文化対策
    漁村ラジオ共同聴取施設はいうまでもなく文化厚生施設の一環としても出発するものであるが、施設完了後の利用範囲はただ単に文化施設としてのみでなく、災害防止施設ともなって人命救助や漁船救助の一助となる外水産気象漁況速報あるいは広報一般連絡に広く活用したい。
 
 以上のような農山漁村振興基本計画が昭和三十五年四月に樹てられ、以後昭和三十五年度から昭和三十九年度にかけて実施されるように、村役場を中心にして漁業協同組合・その他により、盛んに関係機関に対する陳情がなされ、自分達では具体的水産振興について研究・討議が行われていた。
 その結果計画されたものは全てが計画どおり実施されたわけではないが、昆布養殖のための投石・岩礁爆破、その他養殖設備の充実・流通改善のための水産荷捌所・共同集荷所の建設、水産加工処理施設の充実、漁船新改造のための資金の借出、漁法の研究改善(漁協・役場の指導)・港湾設備の充実等の実績を残すことが出来た。このように漁業に直接関連する部面では、大変充実した面が見られたが、直接関連しない漁村環境の部面では不十分な所があった。即ち道路建設や治山関係工事ではやや不十分であり、共同浴場の設置と副業協同施設(編物・洋裁・製縄等)の設置は計画だけで終っていた。

漁撈形態


漁家経済状況


主要生産物調


動無動力船調


水産振興の主要目標


(1)漁船建造計画


(2)浅海増殖事業計画