明治三七年一〇月に、尾札部郵便局主任藤本種八が、函館に出張中の局長飯田清次郎に宛てた絵葉書受払いの事務連絡に、
『紀(記)念絵葉書拾組以上交付不出来由申来候
昨日会計ヨリ早速拾組代金送金セヨ現品ハ着金ノ上発送ストノ電報有之 本日送金 着ノ上ハ悉皆保管致置ベク候
経費ハ未着ニ候ヘ共 着次第御送付可仕候 杉谷ニ宜シク
御手紙下サルトキハ 本絵葉書ヲ以テ願ヒマス』
とある。
記念絵葉書は村の郵便局での取扱い部数に制限があり、現金買いとりであった。
この時、通信に、旅順口封鎖の写真入り多色刷の戦役記念絵はがきが使われている。
この年二月に戦争がはじまって、まもなく戦争への国民の意欲をたかめるために企画され、発行されたものであろう。
第一回逓信省発行の「明治三七年戦役紀(記)念郵便絵葉書」は一組六枚で、戦場の日本軍の写真をのせ、多色刷の絵を地模様にデザインしている美しい印刷である。写真は旅順口封鎖、第一軍ノ靉河渡渉、九連城ノ戦利品、鴨緑江ノ砲戦、南山ノ攻撃、大同江流氷中ノ我艦船である。
この戦役記念郵便絵葉書は好評だったのだろう。戦争がすすむにつれて逓信省は、戦役記念絵葉書を第二回・第三回と次つぎに発行している。
大きな犠牲を出したが戦争は勝利に終わったので、この戦役記念絵葉書の発行は一層多くの企画を重ねたらしく、飯田局長宅にたくさんの戦役記念絵葉書がのこされている。
第二回 一組三枚
得利寺戦役、我兵ノ砲撃、巡洋艦ノ陸上砲撃、各宮妃殿下繃帯御調製
第三回 一組三枚
天皇観兵式、大山大将肖像入り、東郷大将肖像入り。
この三回は、明治三八年の戦勝がほぼ決定的になった五、六月ごろ発行されたものである。
さらに、この日露の戦勝記念絵葉書を、局長飯田清次郎が二四便、家族へあてて投函している。戦争が終わったとはいえ硝煙未(いま)だ消えぬ樺太の地へ出かけた気概を知らせる証である。飯田家は沿岸屈指の漁場主であり、このとき飯田局長は、戦後の樺太漁場開発に出かけたときの音信に、記念絵葉書を用いたものが保存されている。
発信局消印 | (着便 配達印) | ||
明治三八・二・一〇投函 | 函館区宝町一村上方 | 小生義旧十日迄ニ帰宅可仕候間佐様御了知ヒ下度先 ハ御報迄草々 | |
イ便三八・四・ 五投函 | 〃 | (四・七) | 小生義無事ニテ午後六時頃着仕候間御安心ヒ下度委 細ハ後便ヲ以テ申上可候先ハ御報迄草々敬白 |
イ便 四・ 八 | 〃 | (四・九) | 拝呈仕…陳ハ諸品出荷致置候得共貨物沢山之為メ積 申且ツ其後之貨物ハ取扱店ニ於テ諸相談中ニ取リ申 仕候ハ只今□□実ニ閉□□得共何分ニモ各地漁事有 之其為メ汽船不足ニテ実ニ閉口、小生モ各商店ニ頼 ミ置明日頃帰宅可仕候間□□御了知ヒ下度願上先ハ 御報迄デ草々敬白 |
三八・八・一九 | 小生義無事着御安心ヒ下度願上候也 | ||
ハ便丸一型函館九・一一 | 函館港ニテ | (九・一一) | 小生義本日甲子浦丸ニテ函館出発可仕候間佐様御了 知ヒ下度願上候也 |
イ便丸一型小樽 一二 | 小樽港ニテ | (九・一五) | 小生義只今当地ニ着仕候間御安心ヒ下願上候也 |
〃 | 〃 | (九・一五) | 只今当地出帆可致候間御安心ヒ下度願上候也 |
樺太守備軍 第一野戦局 一五 | 樺太(コルサコーフ) 港ニテ | (九・二二) | 小生義十四日午後一時半頃無事着致候間御安心ヒ下 度先ハ御報迄デ草々敬白 |
イ便 一七 | 樺太大泊日本(、、)町 | (九・二一) | 無事安心アレ |
一八 | 〃 六十三号 | (九・二三) | 小生義無事罷在候間御安心ヒ下度願上候也 |
二〇 | 〃 | 小生義無事御安心アレ | |
10-2 二四投函 | 〃 | (一〇・二) | 小生義無事御安心アレ |
ハ便 二七投函 | 〃 五十六号 | 小生義無事罷在候間御安心ヒ下度願上候也 | |
一〇・一 | 〃 | 拝呈仕候陳ハ小生義壮健ニテ無事罷在候間御安心ヒ 下度願上候也 | |
二 四 | 〃 | (一〇・九) | 小生無事本月末ニハ帰国ノ見込 |
守備隊第一野戦局 七投函 | 〃 | 小生義無事御安心アレ | |
ハ便 一六投函 | 〃 | (一〇・二四) | 小生義御安心アレ漁場願書本日限リ〆切仕候 |
一六 一七 | 〃 | (一〇・二四) | 小生義無事御安心アレ漁場願書本日限リ〆切仕候 |
ハ便 二二 | 〃 | (一〇・二九) | 小生義無事本月二十六七日頃当地出立帰国可仕候間 御安心ヒ下度願上候也 |
ハ便 二四投函ス | 〃 | (一一・二) | 小生義無事安心アレ |
二九 | 函館区宝町〓印方 | (一〇・三〇) | 小生義二十九日海上無事後七時三十分安着仕候間御 安心ヒ下度願上候也 |
三九・四・一五 | 樺太嶋西海岸チテナイ弐百弐 十九号ニテ | 小生義本月十五日海上無事ニテ上陸致候間御安心ヒ 下度願上候子供大切ニ可致候余ハ後 |