南茅部に古くから伝わるいくつかのアイヌ神話や義経伝説ほか民話がある。北海道の伝説として発表されたり、知られているものは稀れだが、地名の由来などに興味深いものが多い。
① 天の神からもらった火
オキクルミが、人間(アイヌ)のために火をもらいに天上の国造神(くにつかみ)(コタンカラムイ)のところへいった。
天上の国造神は、火と灰を摑んでオキクルミに投げおろしてくれた。
天上の国造神が投げた火は、駒ケ岳と恵山に落ちて燃え、人間は火を使えるようになった。
『アイヌの神話』更科
② 大アメマス退治
オキクルミは神々の神謠ユカラの主人公である。
オキクルミは、父母がなくて育ての姉である火の神に育てられた。
オキクルミはこの姉の呪術によって多くの危難から救われながら、アイヌの国土の建設をやりとげたという。
屈斜路湖の大アメマスを退治にいったオキクルミは、大あめますに敗れて殺された。このとき多くのアイヌの神々も殺されたという。
神の国も人間の国も滅亡しそうになったとき、オキクルミの子供小(ポー)オキクルミが、育ての姉に教えられて武芸をみがき、ついに白銀の銛をもって湖のあめますを退治にいった。文化神の銛に突かれて死闘の末、あめますを湖畔の小山につなぎとめた。するとあめますは、この小山を引き抜いて逃げようとして、引き抜いた小山の下になって死んでしまったという。
屈斜路湖にある周囲四キロの中島は、もと湖畔にあった小山であるという。
『アイヌの神話』更科
③ 有珠のチャランケの岩
アイヌ神話のオキクルミは、アイヌのいう--「人間」の始祖であるという。またオキクルミは、アイヌの文化神といわれる。
オキクルミにはサマイクルという兄弟がいる。
弟のオキクルミが巧者で、兄のサマイクルが愚者である。(胆振地方)
有珠郡の虻田と、伊達の町の境にある談判岩(チャランケシュマ)という立岩。
昔、伊達と虻田の境の海岸に鯨が漂着した。この鯨を虻田部落のものが、ひとりじめにしようとした。
しかし、流れついたのが伊達の領内であるから有珠部落のものだといって両方の酋長が三日三晩の議論(チャランケ)をたたかわせた。
伊達の方が議論に勝った。すると、その途端、両方の酋長と鯨も石になってしまった。
勝ちほこって威張っている岩が有珠のオキクルミの岩で、負けてしょ気ている岩が虻田のサマイクルの岩である。
『アイヌの神話』更科