境界の北進

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世界の現実の地形についての地理的知識が普及した現在とは異なり、日本の中世以前の社会にあっては、自国の辺境に位置する境界領域は、神秘的な興味の対象、あるいは賤視の対象であるという以上に、むしろ恐怖の対象であった。
 また湾曲しながらも基本的に南北に細長く伸びる日本列島の場合には、中央政府の領域支配の拡大とともに、南北それぞれにおいて、辺境にあたる地域も変化していった。とくに古代以来、ながく征討の対象であった北方世界についての認識の変化については、国家史的に見ても大変興味深いものがある。
 前節までに詳しく見たように、津軽地方が国家の郡制に編成されたことによって、日本の北(これまでも触れてきたように、当時の認識としては東)の境界は津軽海峡あたりにまで北進し、都人からは、それ以北は人知のおよばぬ極めて特殊な世界と考えられるに至った。