昭和61年(1986)1月15日 第23回日本選手権試合

国立競技場

慶大 18-13 トヨタ自動車●

慶大トヨタに勝って初の日本

昭和60年(1985)度 第23回日本選手権試合
1986年1月15日 G:国立競技場 R:ファンワース KO 14:30
慶大 18 13 トヨタ自動車
1 橋本 達矢(④慶応高) 3 0 1 八角 浩司(保善高)
2 五所 紳一(④慶応高) 15 13 C2 畠山 一寿(明大)
C3 中野 忠幸(③慶応高) 3 池田 洋七郎(中京大)
4 柴田 志通(②慶応高) 0 T 0 4 重村 政実(中京大)
5 山越 克雄(③慶応高) 0 G 0 5 塚本 浩二(帝京大)
6 栗原 正信(④慶応志木高) 1 PG 0 6 竹村 光弘(帝京大)
7 上島  治(③慶応高) 0 DG 0 7 安江 健二郎(関商工)
8 油山 哲也(③慶応高) 8 宗雲 克美(佐賀工)
9 生田 久貴(④慶応高) 2 T 1 9 上杉 良広(西陵商)
10 清水 周英(④慶応高) 2 G 1 10 朽木 英次(日体大)
11 太田 浩介(③神戸高) 1 PG 2 11 辻  悦朗(日体大)
12 青井 博也(④桐朋高) 0 DG 0 12 斉藤  進(秋田工)
13 林  千春(④慶応高) 13 田村  誠(帝京大)
14 若林 俊康(③小石川高) 7 15 14 中川 俊一(早大)
15 渡瀬 祐司(④慶応高) 15 芳野 喜隆(日体大)
交代【ト】瀬川秀也(岩内高)⑧

 不沈戦艦「新日鉄釜石」がついに轟沈した。社会人準決勝で釜石は9−9の引き分け寸前に、神戸製鋼CTB藤崎のトライで7年間続いた王座を明け渡した。神鋼はこれで燃え尽きたのか、決勝ではトヨタの軍門に下った。大学でも波乱が起きた。同大が緒戦で早大に3−32という大差で敗れた。勝った早大も準決勝で慶大に秋の雪辱を遂げられ、決勝は慶大明大。12−12の引き分け優勝で、慶大が抽選で日本選手権出場権を引き当てた。

 慶大は80分間、はつらつと走り、当たり、タックルしてトヨタを圧倒し、18−13で初の日本一を獲得した。天を仰ぎ涙をこらえる若き日の慶大上田監督の表情が印象に残る。

 前半は慶大青井の1PGのみで慶大が3−0で折り返した。緊張のためか慶大青井が4回、トヨタ田村が3回のPGを外す信じられないこう着状態が続いた。試合は後半に一気に動いた。4分、トヨタSO朽木がDGに成功して同点に追いつく。9分慶大はラックから、SH生田がインゴールにゴロキックを転がし、出足よく追ったWTB若林が右隅に押さえトライ、青井のゴールが決まって慶大が9−3とリードする。20分トヨタ朽木がこの日2度目のDGに成功、9−6と追いすがる。24分トヨタ田村がPGに成功、9−9と同点に追いつく。26分に慶大青井がPGを決めて12−9とリード。35分に慶大がラックからブラインドを攻めて、渡瀬のリターンパスを受けた太田が左中間にトライ、青井がゴールに成功、トヨタを18−9と突き放した。トヨタはロスタイムにラックから重村が飛び込んでトライしたが、時すでに遅かった。トヨタは得意のスクラムで、コラプシングの反則を再三取られて動揺し、攻撃のリズムを崩したのが敗因となった。

「小さな上田監督の体が、宙に3回舞った。『今度、勝ったらやってくれると信じています』と、上田監督が待ちに待っていた胴上げだ。『あのままずっと空中に浮かんでいたかった』。冬の落日が、駆け足で沈もうとするのを、止めようとするかのように、タイガー戦車軍団の喜びがはじけていた。ノーサイドの笛が鳴ったとき真っ先に駆け出していったリザーブの石森が、ヒゲ面をふるわせている。上田監督に続いて、中野主将、林副将が空に舞う。明治32年、日本ではじめて楕円球が持ち込まれた最古のチーム、慶応に初の日本一をもたらした若きタイガー軍団の中核たちだ。『俺たちはただ手助けしただけで、やったのは彼らです。今日はほめてやります。そう、はじめてほめてやります』。晴れ晴れとした青年監督の目には、光るものがあったのはいうまでもないだろう(後略)」(ラグマガ)。日本のラグビールーツ校慶大が不死鳥のごとくよみがえった試合は、ベストゲームに選ばなければなるまい。