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解題・説明
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【内容】
拝啓。この手紙は秘密の手紙
ですから、御一見の上は直に御火中
を願ひます。
一、辻町の千枝子さんから度々の手紙
につき、昨日辻町へまいり賢ちゃんを
東京へ連れて来ました 賢ちゃんも
前非を悔いて、眞人間になりまし
た、今後は文学方面で名をあげ
ることに努力してゐますから、賢ちゃ
んのことは御安心下さい。
一、その序(ついで)に台町へお訪ね致しまし
て銀行事件につき眞相を聞い
て一驚致しました。これは極く最近
のことで、あなたにもご存じがないでせ
うが、これまでのやうに全然楽観
は出来ないのであります。先づ第一に
和議話が反対者の抗議で駄目に
なったこと。第二に例の笹梅の策動で合
名会社が駄目になったことです。
それについては、福島の田地は全部、茨城も
合名会社の名になってゐるものも全部
中央銀行にとられてしまふことになりました。
その上實に困ったのは、髙塩の屋敷
までも駄目なのです。或は墓石までも競
売にされるか知れません。全く困ったことに
なりました。
ところで磯原の拂下げした山林も合名会社
の名になってをれば、とられてしまひますから。
▢▢あなたから(私に聞いたとは言はずに)
大々至急髙塩へ手紙を出して、間に合ふか
合わないか知らないが、登記をする手続き
をせねば悔へても間にあへません。心配で心配で
たまらない▢この手紙を差し上げる訳で
す。そこで、あなたや雅夫では手続き方が
わからないなら、すぐ行って申し上げます。このことは、
くれぐれも大至急にせねば必ず必ず後々
取り返しがつかなくなります。▢▢▢▢。
東京市下 吉祥寺七四七
野口英吉
二月十七日
茨城縣。多賀郡
磯原町
髙塩 廣子 様
(急信)
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