このような堆積物はどのように形成されたものなのであろうか。長野県水上町付近に、中新世初期(約二三〇〇万年前)の地層で粟沢層とよばれる地層がある。この地層は、この地域におけるグリーンタフ地質系統の最下部の地層で、基盤を不整合におおって発達している。問題はこの地層の基底にある礫岩層である。それは、一見して崖錐堆積物(*6)を思わせるような、長軸が二、三メートルもある巨大な礫を含む分級(*7)の悪い礫岩層である。さらに興味深いことは、地質図でみると基盤との境界がほぼ一直線になっていることである。この礫岩層の形成過程は、図2に示すように、大規模な陥没の発生にともない、その縁辺部から岩や土砂が崩れ落ちたものと考えられている。つまり、グリーンタフ変動に特徴的な陥没―火山活動という発展過程を説明するよい実例となっている。
図-2 粟沢層の堆積様式
豊羽層群の基底礫岩層は、この粟沢層と同じ成因によるものと思われるが、残念なことに、この地域は豊羽層群より新期の火山噴出物におおわれているので、下位の定山渓層群との不整合の境界線を広い範囲に追跡することができない。したがって、陥没形態は具体的に解明できない。しかし、この基底礫岩の分布範囲は、定山渓層群の分布地域の周辺に限られていることからみて、定山渓層群の分布域が隆起し、その周辺で新たに発生した陥没部が豊羽層群の堆積盆地(地層が生成される海底の沈降部)となり、また、新しい火山活動の場ともなったと考えられるのである。それは、豊羽層群下部層の基底礫岩層の上位にくるプロピライト(変朽安山岩)やグリーンタフによって物語られている。
中部層(滝の沢層)の基底にも部分的に礫岩や砂岩がみられる。礫の種類や基質(礫と礫の間を充塡する物質)の性質から火砕流(*8)にまき込まれて形成された礫岩と考えられている。この上位には流紋岩質の溶岩や同質のグリーンタフがみられる。しかし、中部層の特徴としては、硬質頁岩層(*9)がかなり広い範囲に分布することであろう。この硬質頁岩層からは海生貝化石が産出する。このことから、中部層が堆積した時代は、火山活動が比較的静かで、豊平川上流域を含めた広い地域は海におおわれていたと考えられる。
上部層(小樽内川層・夕日沢層)はほとんど火山岩と火山砕屑岩で構成されている。岩質は、下部が石英安山岩質で、中部は安山岩質と石英安山岩質、そして上部が流紋岩質の火山岩類となっている。
陷没で始まった豊羽層群の堆積も、この上部層(小樽内川層)にみられるような大規模な火山活動で終局を迎えたのである。
*5 不整合(ふせいごう) ある地層が堆積後隆起し、陸上で風化・削剝作用をうけ、その浸蝕面上に新しい地層が堆積するとき、両者の関係を不整合という。このような場合、新旧二層の間にはいちじるしい堆積作用の中断がある。つまり、時間的間隙が大きいのである。一般的には、上下二つの地層間にみられる多少とも重要な不連続関係をいう。整合の対語。しかし、実際には整合に重なる二つの地層間にも堆積の間隙はある。したがって、どの程度の間隙を不整合とみるかは一律に定められないので、用法は研究者の見方によって異なる場合がある。不整合は地層を区分する大きな基準となるが、研究者によって地層区分が異なるのも不整合に対する考え方や見方のちがいによるものである。
*6 崖錐堆積物(がいすいたいせきぶつ) 急斜面の表層部にある風化岩屑が崖下に落下して形成した円錐状の地形を崖錐という。その堆積物は角礫を主とするが、大小の粒径の物質が混入しているのが特徴である。
*7 分級(ぶんきゅう) 堆積物は河川などで運搬される過程で、粒子の種類・粒度・形状・比重などに応じた分別作用をうけながら集積したものである。この分別作用を分級あるいは淘汰作用という。
*8 火砕流(かさいりゅう) 広義には種々の火山砕屑物が一団となって、おもに重力によって猛スピードで地表を流下する現象をいう。火山砕屑流ともいう。狭義には、高温の本質火砕物質と火山ガスの混合物の高速の流れをいう。これには軽石流・岩滓流・火山灰流・熱雲などが含まれる。
*9 硬質頁岩層(こうしつけつがんそう) 東北日本弧内帯のグリーンタフ地域の硬質頁岩を主とした新第三紀層で、下位に緑色凝灰岩をともない、中新世後期を指示する。渡島半島部の八雲層や道北の稚内層などが北海道で典型的な硬質頁岩層となっている。