縄文時代早期の特色に、北海道の東北部を中心として、石刃鏃と称される特殊な形の鏃を特徴とする石刃鏃文化の存在がある。かつて、先土器文化(旧石器)の遺跡の発見が全国的な規模で盛んに行われていた昭和三十年代前半には、札幌市内においても断片的ではあるが、数点の石刃(ブレード)、石器等が採集されている。これらの資料のうち、図示した二点(図8)については制作技法、形状より「石刃鏃文化」の所産と考えられている。
石刃鏃文化は、非常に高度な石刃技法によって得られた石刃の腹面に、簡単な剝離加工を施した鏃「石刃鏃」によって代表される特異な文化の総称である。石刃鏃文化の石器群は、黒曜石の石核から縦長形状の細く薄い石刃を連続的に多数剝ぎ取り、これを素材としたものが主体を占める。大陸が原郷土であり、シベリア地方のアンガラ川流域、レナ川流域、アムール川流域を中心に広く分布しており、北海道では道東北部を主に渡島半島を除く石狩低地帯付近にまで総数五〇カ所程の遺跡が分布していることが知られている。道東北部を除いた地域の他は、特徴的な石刃鏃のみの発見例であり、その南限は太平洋側で苫小牧、白老、登別、日本海側では札幌付近までである。