調査のもう一つの分野は、文書記録にもとづき、従来からの松前蝦夷地の取扱い方を集約すること。急迫する外交問題に交渉資料として歴史的経緯をまとめ備え付けておこうとしたのである。
したがって急速かつ簡易の編纂作業が要請された。安政元年前田健助が蝦夷地御記録調御用としてその任にあたるが、作業を始めてみると容易ならざる難事業であることがわかってきた。また記録にのみたよる集成では現況を把握できないとし、〝土地実検〟の必要を説くにいたり、この事業はもはや簡易急速に仕上がるものでないことが明らかとなった。
前田の手がけた『蝦夷志料』はついに生前完成をみず、没後その子に引継がれ、慶応元年(一八六五)二一〇巻が大成、一一年をついやしたことになる。また土地実検は目賀田帯刀等によって『蝦夷実地検考録』『延叙歴検真図』『蝦夷全図』としてまとめられていく。これらについては本章第二節でふれることにする。