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創建社の集い

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 札幌新川端の古本屋創建社の主人田所篤三郎は無政府主義に共鳴し、若者を集めて社会問題の放談会を開いていた。この放談会は十一年九月二十日に解散させられ、メンバーは逮捕された。田所は甲号特別要視察人に編入された。有島武郎の『酒狂』のモデルは田所だという。田所について北海道庁警察部は、内務省警保局に次のように報告している。
 北海道札幌在住田所篤三郎ハ客年三月居住地に創建社ナル書籍店を開業シ主トシテ思想問題に関スル書籍ノ販売貸本ヲ為シタリシカ同店ニ出入スル者ヲ物色シテ会員二十名ヲ得更ニ社友五百名ヲ得タリ
 a右田所ハ創建社及同志宅ニ於テ屢々同志ノ会合ヲ催シ共産主義ノ論議討究ヲ為シタリシカ同志ヲ工場職工タラシメ同盟罷業ヲ決行センコトヲ論議シタル形跡アリ
 b田所ハ東京山川均一派ノ共産主義者ト脈絡アル形跡アリシカ山川ノ「前衛社」ノ主唱ニ係ル露西亜飢饉救済運動ニ参加シ鉄道局苗穂工場ヲ中心トシテ募集セル事実アリ
 c田所ハ客年八月ヨリ九月ニ至リ「革命歌」其ノ他ノ不穏印刷物ヲ秘密出版シ同志ニ頒布セルヲ以テ之ヲ検挙セリ
(内務省警保局 最近ニ於ケル社会思想団体ノ状況 大12・1調)


写真-14 創建社集会参加者は警察の特別要視察人となった

 放談会のメンバーの多くは転向したが、鉄道局苗穂工場の職工であった蔵前光家(十一年十二月に乙号特別要視察人に編入された)や、北海道拓殖銀行の見習行員であった地主淳吉は共産主義運動に転じ、長く社会運動を続けた。