北海道でも官社の組織であった北海道神職会などでは、明治四十一年九月五日の創立総会にて「無願神社ノ取締励行ヲ道庁長官へ上申ノ件」を討議しており、その後もしばしば無願社の問題を取り上げていた。ただ実際には、北海道は開拓地でもあったことであり道庁による取締りが強行されたことはなかった。
その後、昭和に入り敬神思想と国家神道の強化策として、再び内務省では無願社取締りを行っていくようになり、昭和五年に道庁学務部から札幌市宛に「無願神祀」の照会があった。この回答のために札幌市では市内の神官に調査を依頼しているが、調査票に記入された市内の「無願神祀」には表2の諸社があった。
表-2 札幌市内の「無願神祀」諸社 |
社名 | 所在地 | 設立 | 祭神 | 信徒数 |
北野神社 | 北16西4 | 大13.10.13 | 三天照皇大神,稲荷大神,天満宮 | 800戸 |
八二稲荷社 | 豊平3-2 | 大13. 9 . 8 | 倉稲魂之命 | 50戸 |
水天宮 | 豊平水車通 | 明35頃 | 水波能売神,水分神 | 30戸 |
山鼻三柱大神 | 南18西13 | 明22. 5 .17 | 耳早主雄之神,大山祇大神,天満宮 | 約2,000戸 |
花守稲荷社 | 白石郭内 | 大 9 . 9 | 豊受大神,大山積大神,大国主大神,大名彦大神,天鈿女大神 | 250人 |
開運稲荷社 | 桑園競馬場内 | 明41. 9 .25 | 豊受大神,大山積大神,大国主大神,大名彦大神,天鈿女大神 | 26戸 |
『社寺関係書類』(昭5)より作成。 |
その他にも水天宮(南一〇西四)、祖霊社(南五西八)なども「無願神祀」にあげられているが、調査票には記入されていない。祖霊社は社則によれば、「祖霊殿ヲ設ケ歴代皇霊及氏子各家ノ祖宗ヲ奉斎シテ幽現一致奉公護国ノ実ヲ挙グルコト」とされた信仰団体であったが、昭和八年四月に一八〇人から婦人会も創設され、機関紙『家の光』を刊行していた(札幌祖霊社 昭16)。
道庁ではこうした「無願神祀」の調査を実施してはいたが、逆に「移民の信仰、土着心を養成する」上では、たとえ無願社でも構わないという立場をとっており(北タイ 昭10・6・15)、無願社は容認されていた状況であったのである。