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札幌組合銀行の預金金利協定

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 札幌組合銀行では、預金金利協定を結び、公表していた。全国的には、預金金利協定は明治三十年代に始められ、大正七年には、大蔵省の指導下に六大都市を中心として罰則を伴う本格的協定が成立した(岡田和喜 静岡市銀行同盟会と「預金協定」)。札幌における沿革をたどると、明治四十一年四月に拓銀、北海銀行、道銀支店が定期預金利上げの広告を新聞に出していることが確認できる(北タイ 明41・4・6)。ただし、組合銀行という名称は用いられていない。この時期の預金利子改正広告は、複数の銀行連名で出されたものの、その組み合わせは変化し、一定していない。組合銀行の名が新聞紙上に現れるのは、明治四十三年五月に「札樽組合銀行春季連合会」なるものが催されている(北タイ 明43・5・7)のが最初であり、四十五年一月に「組合銀行は……豊平館に土曜会を開催すべきが目下の問題たる銀行預金利子引上げに関する協議なるべし」(北タイ 明45・1・20)と、組合銀行による預金利子協定の姿が現れるのである。
 大正十年以降の札幌の預金協定を表10にまとめた。大正十年九月の利率は「小樽と同鞘」(北タイ 大10・9・3)であり、昭和二年十月も小樽と同率であった(北タイ 昭2・10・7)。昭和八年七月の利下げは、六月二十九日に小樽組合銀行が会合し、「札樽組合銀行は同一歩調をとる必要上右(注・預金利下げ)に関する打合せをなし三十日改めて臨時総会を開き」態度を決定することになった(樽新 昭8・6・30)。札幌組合銀行では、二十九日、三十日と協議を続け、三十日には「各行の意見の一致を見たが、なほ他地方の振合等も考慮する必要があり」翌日に決定を持ち越している(北タイ 昭8・7・1)。札幌、小樽の共同歩調がとられていたのである。
表-10 札幌組合銀行預金金利協定一覧
実施年月日協定内容出典
定期預金
 (年利)
当座預金
 (日歩)
特別当座預金
   (日歩)
大10. 3 .?~5分7厘7厘1銭2厘北タイ 大10. 3 . 3
 10. 9 . 5 ~5分2厘6厘1銭1厘北タイ 大10. 9 . 3
 11. 4 . 1 ~6分2厘6厘1銭1厘北タイ 大11. 3 .29
昭 2 . 2 . 9 ~5分7厘5厘1銭1厘北タイ 昭 2 . 2 . 6
  2 .10.12~5分2厘4厘1銭  北タイ 昭 2 .10.12
  4 . 2 . 4 ~4分7厘3厘9厘北タイ 昭 4 . 2 . 2
  6 . 4 .18~4分5厘2厘8厘北タイ 昭 6 . 4 .18
  6 .12.14 4分8厘3厘9厘北タイ 昭 6 .12.13
  7 . 9 . 1 ~4分4厘2厘8厘樽新  昭 7 . 8 .30
  8 . 7 . 4 ~4分  2厘7厘北タイ 昭 8 . 7 . 2 夕
  9 . 7 .21~3分8厘2厘6厘樽新  昭 9 . 7 .20
 11. 4 .14~3分4厘1厘5厘北タイ 昭11. 4 .11

 ところで、小樽組合銀行の協定利率は、東京との開きを考慮して決定された。昭和六年十二月の利上げの際は、小樽金融界の発達を理由に、定期預金年利を東京との二厘差から一厘差に縮め、翌七年八月の利下げの際には、再び二厘差とし、八年七月には三厘差に拡大したという。地場銀行は、急激な預金利子引き下げ反対、東京との格差拡大を主張し、内地銀行支店は引き下げ、格差縮小を主張した(樽新 昭8・7・2)。これは、地場銀行は、高利息で預金獲得をはかろうとしているのに対し、内地銀行は、道内預金を内地で貸し付ける関係上低利息を望んだからであろう。八年は地場銀行の主張が通った稀なケースであった。したがって札幌組合銀行の協定利率も、間接的に内地銀行と地場銀行の均衡の上に成り立っていたということができる。
 このようにして戦間期には、不況と銀行合同によるコスト削減によって、金利は低下傾向にあった。昭和十一年の二・二六事件後成立した広田内閣馬場財政下において低金利政策が打ち出され、地方金利平準化が唱えられた。それを受けて四月に全国的な利下げが実施されている。札幌・小樽あるいは北海道の金利水準は、全国的にみてどの程度のものだったのだろうか。昭和十一年四月の全国各組合銀行預金協定成立後の調査をまとめたものが表11である。東日本だけを比較したが、札幌、小樽、函館組合銀行は、関東の東京、横浜等を下回るものの、全国的にみれば低金利地帯を構成している。北海道の各組合銀行も東北と比べると低金利である。なお、札幌甲と札幌乙があるが、一般にこれは組合内にこのような段階規定を設けて利率に幅を持たせ、加盟銀行が遵守しやすくしたものである(明石照男 大正銀行史)。
表-11 定期預金協定利率別組合名 (昭11.5.10現在)
協定利率北海道東北関東
4分弘前市茨城県乙
3分9厘福島県乙
3分8厘青森市
秋田乙
山形県第三区
3分7厘札幌
3分6厘福島県甲二
宮城県
山形県第一区乙
 同 第二区乙
 同 第四区乙
 同 第五区乙
横須賀市
千葉
茨城県甲
3分5厘旭川甲,乙,丙
室蘭一,二,三
釧路甲,乙
秋田甲東京乙,八王子,
横浜乙,川崎市,川越,
高崎市乙,前橋乙,
両毛機業地乙,宇都宮乙
3分4厘小樽一,二,三
札幌
函館甲,乙,丙
山形県第一区甲
 同 第二区甲
 同 第五区甲
 
3分3厘以下東京甲,横浜甲,
高崎市甲,前橋甲,
両毛機業地甲,宇都宮甲
東京手形交換所「全国預金協定利率調」(『銀行通信録』604号,昭11.5.20)より作成。

 これまで預金金利のみをみてきたが、貸出金利はどうだったのか、図5をみてみよう。図の定期預金、当座預金金利はそれぞれ協定利率にほぼ一致する。貸出金利はより頻繁に変動しているが、低下傾向は明瞭である。拓銀の長期貸付金利も低下し、日本勧業銀行の内地における貸付金利との格差は急速に解消した(北海道拓殖銀行史)。金利の全国的平準化という点において、北海道も例外ではなかったのである。

図-5 札幌組合銀行金利 各月最低 (札幌商業〔工〕会議所『統計年報』,同『月報』より作成)