大正十年以降の札幌の預金協定を表10にまとめた。大正十年九月の利率は「小樽と同鞘」(北タイ 大10・9・3)であり、昭和二年十月も小樽と同率であった(北タイ 昭2・10・7)。昭和八年七月の利下げは、六月二十九日に小樽組合銀行が会合し、「札樽組合銀行は同一歩調をとる必要上右(注・預金利下げ)に関する打合せをなし三十日改めて臨時総会を開き」態度を決定することになった(樽新 昭8・6・30)。札幌組合銀行では、二十九日、三十日と協議を続け、三十日には「各行の意見の一致を見たが、なほ他地方の振合等も考慮する必要があり」翌日に決定を持ち越している(北タイ 昭8・7・1)。札幌、小樽の共同歩調がとられていたのである。
表-10 札幌組合銀行預金金利協定一覧 |
実施年月日 | 協定内容 | 出典 | ||
定期預金 (年利) | 当座預金 (日歩) | 特別当座預金 (日歩) | ||
大10. 3 .?~ | 5分7厘 | 7厘 | 1銭2厘 | 北タイ 大10. 3 . 3 |
10. 9 . 5 ~ | 5分2厘 | 6厘 | 1銭1厘 | 北タイ 大10. 9 . 3 |
11. 4 . 1 ~ | 6分2厘 | 6厘 | 1銭1厘 | 北タイ 大11. 3 .29 |
昭 2 . 2 . 9 ~ | 5分7厘 | 5厘 | 1銭1厘 | 北タイ 昭 2 . 2 . 6 |
2 .10.12~ | 5分2厘 | 4厘 | 1銭 | 北タイ 昭 2 .10.12 |
4 . 2 . 4 ~ | 4分7厘 | 3厘 | 9厘 | 北タイ 昭 4 . 2 . 2 |
6 . 4 .18~ | 4分5厘 | 2厘 | 8厘 | 北タイ 昭 6 . 4 .18 |
6 .12.14 | 4分8厘 | 3厘 | 9厘 | 北タイ 昭 6 .12.13 |
7 . 9 . 1 ~ | 4分4厘 | 2厘 | 8厘 | 樽新 昭 7 . 8 .30 |
8 . 7 . 4 ~ | 4分 | 2厘 | 7厘 | 北タイ 昭 8 . 7 . 2 夕 |
9 . 7 .21~ | 3分8厘 | 2厘 | 6厘 | 樽新 昭 9 . 7 .20 |
11. 4 .14~ | 3分4厘 | 1厘 | 5厘 | 北タイ 昭11. 4 .11 |
ところで、小樽組合銀行の協定利率は、東京との開きを考慮して決定された。昭和六年十二月の利上げの際は、小樽金融界の発達を理由に、定期預金年利を東京との二厘差から一厘差に縮め、翌七年八月の利下げの際には、再び二厘差とし、八年七月には三厘差に拡大したという。地場銀行は、急激な預金利子引き下げ反対、東京との格差拡大を主張し、内地銀行支店は引き下げ、格差縮小を主張した(樽新 昭8・7・2)。これは、地場銀行は、高利息で預金獲得をはかろうとしているのに対し、内地銀行は、道内預金を内地で貸し付ける関係上低利息を望んだからであろう。八年は地場銀行の主張が通った稀なケースであった。したがって札幌組合銀行の協定利率も、間接的に内地銀行と地場銀行の均衡の上に成り立っていたということができる。
このようにして戦間期には、不況と銀行合同によるコスト削減によって、金利は低下傾向にあった。昭和十一年の二・二六事件後成立した広田内閣馬場財政下において低金利政策が打ち出され、地方金利平準化が唱えられた。それを受けて四月に全国的な利下げが実施されている。札幌・小樽あるいは北海道の金利水準は、全国的にみてどの程度のものだったのだろうか。昭和十一年四月の全国各組合銀行預金協定成立後の調査をまとめたものが表11である。東日本だけを比較したが、札幌、小樽、函館組合銀行は、関東の東京、横浜等を下回るものの、全国的にみれば低金利地帯を構成している。北海道の各組合銀行も東北と比べると低金利である。なお、札幌甲と札幌乙があるが、一般にこれは組合内にこのような段階規定を設けて利率に幅を持たせ、加盟銀行が遵守しやすくしたものである(明石照男 大正銀行史)。
表-11 定期預金協定利率別組合名 (昭11.5.10現在) |
協定利率 | 北海道 | 東北 | 関東 |
4分 | 弘前市 | 茨城県乙 | |
3分9厘 | 福島県乙 | ||
3分8厘 | 青森市 秋田乙 山形県第三区 | ||
3分7厘 | 札幌乙 | ||
3分6厘 | 福島県甲二 宮城県 山形県第一区乙 同 第二区乙 同 第四区乙 同 第五区乙 | 横須賀市 千葉 茨城県甲 | |
3分5厘 | 旭川甲,乙,丙 室蘭一,二,三 釧路甲,乙 | 秋田甲 | 東京乙,八王子, 横浜乙,川崎市,川越, 高崎市乙,前橋乙, 両毛機業地乙,宇都宮乙 |
3分4厘 | 小樽一,二,三 札幌甲 函館甲,乙,丙 | 山形県第一区甲 同 第二区甲 同 第五区甲 | |
3分3厘以下 | 東京甲,横浜甲, 高崎市甲,前橋甲, 両毛機業地甲,宇都宮甲 |
東京手形交換所「全国預金協定利率調」(『銀行通信録』604号,昭11.5.20)より作成。 |
これまで預金金利のみをみてきたが、貸出金利はどうだったのか、図5をみてみよう。図の定期預金、当座預金金利はそれぞれ協定利率にほぼ一致する。貸出金利はより頻繁に変動しているが、低下傾向は明瞭である。拓銀の長期貸付金利も低下し、日本勧業銀行の内地における貸付金利との格差は急速に解消した(北海道拓殖銀行史)。金利の全国的平準化という点において、北海道も例外ではなかったのである。
図-5 札幌組合銀行金利 各月最低 (札幌商業〔工〕会議所『統計年報』,同『月報』より作成)