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玉葱

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 北海道玉葱「札幌黄」の産地別作付面積を示した表26によれば、札幌村の生産額の占める割合は、四一・三パーセント(昭5)、三九・九パーセント(昭10)、三五・三パーセント(昭14)であり、低下傾向にあるものの、依然として大きいことがわかる。以下に、代表的な輸移出野菜であった玉葱について、消費市場と販売組織の変化にしぼってみていきたい。札幌黄の消費市場は海外、府県、道内に分けられるが、その生産、流通、消費を示した表27によれば、年次が新しくなるにつれて、三つの消費市場における需要量間に相対的な変化を認めることができる。すなわち、輸移出量の道内消費量に対する比重が低下したのである。絶対量についてみれば輸移出量には大きな変化はみられないが、道内需要量のみは著しい増加を示している。札幌黄栽培が輸移出を目的として出発したのにもかかわらず、結果的には道内における需要の増大にともなって、道内需要に応ずる形でその重心が加速度的に移行しつつあったわけである。それでは、かかる事態は札幌黄栽培農業にとって何を意味するのであろうか。西尾幸造「北海道玉葱の市場構造と生産者の企業者的性格」(農業総合研究 臨時増刊 昭24・8)は、このように問題を設定した上で、この時期の消費市場の変遷過程とそれの諸条件を跡づけることから出発し、府県玉葱栽培の増大と技術の発達、札幌黄と府県生産玉葱の生産費の比較、道内産業構造の変化過程における購買力の検討を通して、「府県移出減少傾向は札幌黄の府県における敗北ではなく、著しく需要の増大した、しかも、より有利なる道内市場への推移とみるべきであった。いわば、札幌黄の市場選択の結果であった」と述べている(なお、北海道玉葱の仕向国別輸出高については表28を参照)。

写真-3 札幌村の玉葱畑(昭和11年頃)

表-26 北海道玉葱の産地別作付面積(単位;町)
産地別昭567891011121314
札幌610613599614640634649643648758
篠路村73777981919595104138148
岩見沢市78667277797081848994
滝川町34354543474758617773
富良野町20191819323940475978
山辺村565448551095969607175
訓子府村121015256049504857121
北見市2837485367546870105145
その他564496592526682564479534667654
1,4761,4071,5161,4931,8071,6111,5891,6511,9112,146
西尾幸三『北海道玉葱の市場構造と生産者の企業者的性格』(『農業総合研究』臨時増刊,昭24.8)より作成。原表は『北海道玉葱輸出同業組合調査資料』より作成。

表-27 北海道玉葱の生産・流通・消費
区分生産量(A)直輸出量(B)移出量(C)(B)+(C)道内需用(D)(B)/(A)(C)/(A)(B)+(C)
/(A)
(D)/(A)生産指数
5カ年平均
大正 1~522,221,485斤4,352,104斤11,812,140斤16,164,246斤6,057,239斤20.0%52.3%72.3%27.7%11.7%
6~1027,793,7124,921,5554,999,3119,920,8667,872,84618.017.635.664.418.4
11~1535,727,4052,407,14015,850,63418,257,77417,469,6317.148.055.144.943.5
昭和 2~636,865,8733,696,92012,826,66516,523,58520,342,28810.035.245.254.877.4
7~1152,987,2984,225,10012,718,48016,943,58036,043,7188.226.634.865.2120.4
1.生産指数は昭和6~8年の3カ年平均数値を基準とする。
2.道内需用は生産者消費をも含む。
3.西尾幸三『北海道玉葱の市場構造と生産者の企業者的性格』より作成。原表は『北海道庁統計書』,『函館税関貿易年報』,『小樽商工会議所統計年報』より作成。

表-28 北海道玉葱の仕向国別輸出高(直輸出)
数量(斤) 
年次露領アジア中国関東州香港台湾朝鮮比島その他
大12256,20035,80073,6001,00010,00040,0001,246,500
13130,50025,80018,100190,5001,650,000
1435,40025,000191,600
15343,90010,60024,800175,200
昭 2575,200217,50023,000126,000
3421,6001,080,00051,200702,900
4386,200268,400757,1005,00077,400826,8002,391,800
5667,200803,100454,5006,100258,900790,5002,386,000
6683,300671,800377,90042,000723,4001,234,000
7609,200174,4001,089,600155,6001,665,300969,10018,100
8472,50027,8001,662,900800291,6001,612,700142,00016,200
9764,10029,0002,536,800139,200575,1004,032,500985,80078,700
105,015,50052,6002,235,400413,700659,2003,912,900581,700695,000
11103,400225,0002,143,800247,300214,0002,429,300187,80053,300
1210,5002,228,900195,3004,233,0001,047,000
131,088,3006,905,60083,60010,781,000380,900
価額(円) 
大12132,3801,4202,7904024096044,217
136,7871,06097710,28783,600
141,8857505,748
1514,4345406804,950
昭 226,77711,1958834,838
324,44150,6691,72823,723
426,07013,34038,4363204,18044,647111,144
531,37421,42416,2343653,88411,85870,677
621,77016,11310,10475613,02133,316
725,3246,13040,3823,73439,96731,092608
817,66995963,631259,62353,2194,728325
921,41267558,3913,27913,80296,78022,4441,485
10169,6461,18371,34910,00011,86670,43315,7303,895
118,95713,450148,42512,76110,845109,31910,0502,285
12719118,6207,968172,70748,550
1358,014357,1923,912349,30419,058
1.関東州は満州をも含む。
2.西尾幸三『北海道玉葱の市場構造と生産者の企業者的性格』より作成。原表は『函館税関貿易年報』より作成。

 次に、生産者の販売組織について、前出西尾論文は、「札幌村においては次の如き二つの型をもった共同組織を見出す。一つは共同組織の基礎が、法的擁護に繋がる産業組合法を背景としているのに対して、他の一つは全く裸のままの経済の場に曝されつつ、共同の紐帯を彼等相互の信用と資本力と運営能力とに求めている。発生的にみれば前者は与えられたものであるに対して、後者は全く自発的である。活動についてみれば結果はとも角とし、後者においては経済の撹乱を目指した努力の跡が見出されるのである」とし、「札幌黄販売活動にかかわる、札幌村共同組合史は将に右の如き二つの型による共同組織の、数次の浮沈と交替に彩られている」と述べ、後者の型の共同組織の販売活動にこそ、札幌村における玉葱生産者の企業者的性格(企業家的農業者)を見出すのである。そして、「上述の如く価格にして奔放にして、あくまで蔬菜である札幌黄は、小共同組織をして却って充分なる機能を発揮せしめ得た」と言い切るのである。以下に引用する『札幌村史』の既述は、このような西尾論文と同一の趣旨に沿っているものと考える。
村の玉葱栽培者が如何に商売上手であったかと云うことは、次のことを知れば明らかになる。即ち札幌村の出荷組合が余り上手に玉葱販売をするので、道の方でも北海道を一円とした玉葱出荷組合を作ったらと云う声が出てそれを試みたのである(大正十五年)。本村の出荷組合は今までの経験からきっと失敗するからと考えて反対したけれども、村の主張は容れられずに北海道玉葱出荷組合は出来上った。しかしこれは二年とは続かなかった。即ちそんな大がかりなことをしただけで商売下手はかくすことが出来なかったのである。玉葱は生物であるし、値段の上り下りも相当激しいからこれを上手に売るには多年の経験がものを云うわけである。一寸した呼吸でそれをさばいてゆくのであるが、素人ではその呼吸が会得出来ないのだ。結局道単位の組合は解散して、村では元通りの出荷組合で商売をすることになった。