食品工業は、札幌工業の中心であった。表50によると毎年首位を占めているビールは大日本麦酒札幌工場により生産されたものである。札幌工場で製造されたビールは、サッポロビールの名称で道内、樺太、一部は内地に販売された。大正十五年の資料によると、全国のビール生産高は九〇万石～一〇〇万石であり、そのうち約七割は大日本麦酒である。北海道ではやはり大日本(サッポロビール)が強く、約九割弱であり残りをキリン、ユニオン、サクラビールが占めていた。キリンビールは、震災後仙台工場をもち、サクラビールは、景品作戦で北海道への進出をはかっていた(樽新　大15・5・25)。

　表51は、サッポロビールの販売高である。合計欄をみると、販売高は増加する傾向にあり、表示した期間のピークは十四年下期である。札幌市の欄では販売高は増え続け、表示した期間のピークは十七年下期である。第四章四節で札幌直営ビヤホールの売上が十五年まで増え続けることを示したが、家庭用をも含む販売高全体では、さらにその後も増え続けているのである。日中戦争開始直後の北海道・樺太地方は「人心頓ニ緊張シ自戒是レ努メ、消費節約ノ声ト共ニ市況著シク沈滞」し、九月以降は「売上連月甚ダシキ不振ニ陥」った(札幌支店　昭和十二年下半期販売状況報告)。しかし十三年上期には回復し、十三年下期に札幌地方(札幌、江別、岩見沢、栗山、夕張から成る)では「付近農村方面、炭坑方面ノ好況ニ加へ時局柄道庁所在地タル札幌市ニ於ケル諸会合モ頓ニ多キヲ加フル等需要ノ増進著シク三割七分ノ増加ヲ来セリ」という状況であった(同前　昭和十三年下半期)。

　十四年上期には、札幌地方は「全般ニ亘リテ景気良好、花柳界、カフェー方面ハ近年ニナキ繁昌ヲ見需要ノ増進著シカリキ」(同前　昭和十四年上半期)。全道的には、十四年まで、札幌市については十七年までは戦時体制の強化とともにビールの売れ行きも伸びたようである。全国のビール生産高も十四年がピークであり、政府は生産・消費を規制しなかった。これはビール税(造石税)収入が増えるためで、むしろ戦時財源として十二年以降十七年を除いて毎年増税を行った(サッポロビール株式会社　サッポロビール一二〇年史)。