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農村衛生調査

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 大正五年、内務省内に保健衛生調査会が設置された。それは、同年全国の死亡数が前年比で九万四〇三九人増えて一一八万七八三二人となり、乳幼児死亡実数、乳児死亡実数、乳児死亡率、一般死亡率、肺結核死亡率のどれも過去五年間の最高を示すといった大きな理由があった(近代日本社会調査史 三)。そして、この調査会の調査項目に、はじめて「農村衛生調査」の項目が設けられ、大正十年実施の札幌白石村(現札幌市の一部)での農村保健衛生状態実地調査にいたるのである。『札幌白石村ニ於ケル保健衛生調査』によれば、調査は内務省指導のもと、北海道庁・白石村吏員、防疫医、衛生技師、警察官等によって同年十月から翌十一年三月まで行われた。
 白石村が選ばれたのは、札幌区に近いこと、純農村であること等によるものであった。戸数八八四戸、五四六二人(大9)の白石村の場合、過去一〇年間の出生数、死亡数および死亡原因、乳幼児死亡率、糞便検査、結核性疾患はそれぞれ次のようであった。
 出生数は一六四七人で、千分比にすると三一・八で全道の四二・九九に較べはなはだしく低い。死亡数は一〇五三人で(千分比二〇・二)、死亡原因は、消化器疾患二一三人、伝染病一七六人、神経系疾患一七〇人、呼吸器疾患一六三人の順で、伝染病中には結核性疾患八六人も含まれていた。死亡者を年齢別にみてゆくと、〇~五歳の乳幼児の死亡は五四三人、死亡率にして五一・七パーセントと、全国の三九・〇パーセントに較べかなり高く、なかでも二歳以下の乳児の死亡率が高いことがわかった。糞便検査の結果では、検査人員三四五七人中、二〇〇七人、五八・〇六パーセントが寄生虫卵保有者といった驚くべき結果が出た。このためサントニン等を服用させたところ、好結果が得られた。結核性疾患は、検査人員三四五七人中二四人、〇・六九パーセントの患者が発見され、患者戸数にすると二一戸であった。
 このような内務省衛生調査会による調査は、保健増進の資料収集であり、これらの資料にもとづいて、大正八年の旧結核予防法、精神病院法、トラホーム予防法が公布され、昭和二年の花柳病予防法、六年の寄生虫予防法の公布へとつながり、十二年の旧保健所法の公布へと向かうのである。