札幌・北海道の冬季間の積雪は、建設工事にとって大きな桎梏であり、冬季も工事を行う通年施工が札幌建設業の課題であった。北海道土木部は、昭和四十二年から三カ年にわたり試験工事を行い、冬季施工に適する工種、工費増嵩の程度を明らかにするデータを集め、冬に適した工法の開発に努めてきた。この結果、道内官公庁の発注した冬季工事は四十四年度の七三億円から四十六年度の二〇三億円へと増大し、札幌オリンピック関連工事も通年施工に寄与している(道新 昭48・1・10)。たとえば、札幌中央警察署が受け取った各種工事に伴う道路使用許可申請は、従来は十一月以降には夏季の十分の一に満たない水準に落ち込んだが、四十七年冬を境に申請ペースが四季を通じて変わらなくなったという。四十七年については、夏季まで月平均五〇〇件であったのに対し、十一月は七八七件にはね上がり、十二月も四五〇件と夏季に比べて減少していない(道新 昭48・1・16)。ビル建設についても、四十八年三月時点で三井建設札幌支店は道内九件のビル建設工事をかかえており、大林組札幌支店は、札幌市内で銀行二件、証券、機械メーカー、団体のビル建設を進めており、札幌では夏季並みのビル建設工事が行われているという。竹中工務店の東急百貨店建設工事では厳寒期に大量のコンクリート打ちが行われるなど、技術進歩により冬季施工が可能となっているのである(道新 昭48・3・7)。
四十八年冬も、建設各社は夏季並みの工事を手持ちしており、資材不足などのためにかなりの工事が越年しそうだという。清水建設北海道支店は、通常では工費が一〇億円以上の大型工事が残るが、四十八年は四、五億円以上クラスの大半が年を越しそうだという。また、地崎工業でも二六件の工事をかかえ、例年なら東京方面へ応援部隊を出すところだが、今年は無理だろうとみている。しかし、技術面でクリアしつつあった冬季施工だが、コンクリート養生の暖房設備費などのコスト面の問題は残されていた(道新 昭48・11・28)。
四十七年、四十八年は過熱景気により建設需要の特に大きい時期であった。その後の低成長期には、コスト面の問題から冬季施工は縮小したものと思われる。冬季に工事が減ることにより、夏季に建設業に従事していた労働者は、いったん解雇され冬季は失業保険により生計を立てるという、北海道独特の季節労働者問題が顕在化した。五十七年五月十一日に開催された第七回通年施工化技術研究協議会は、北海道の場合、現状では公共土木工事の約一〇パーセントが冬季に行われているが、これを一五パーセントに高めると期間中の失業者が三万八〇〇〇人減少するが工事原価は約九パーセント割高になるということが明らかにされた(道新 昭57・5・12)。翌五十八年開催の通年施工化技術研究協議会は、北海道についての研究結果を明らかにした。これによると、道内の建設省所管事業は公共事業全体の三〇パーセントにあたる四二九〇億円だが、五十五年では一~三月発注は六パーセントにすぎなかった。工種別には河川構造物、ダム、トンネルなどで道路改良、舗装工事の割合は低い。これを五パーセント前後増やすことは可能だとした。ただし、公共事業費が抑制されている現状では、冬季工事を増やせば夏季工事が減額され混乱を招くことが指摘された。この推計でも冬季の失業者が七一〇〇人減るかわりに夏季には三八〇〇人の失業が出ることが推測されていた(道新 昭58・5・11)。このように、夏季に就労し、冬季は失業保険で暮らすというスタイルは、冬季に失業を集中させるものだったが、工事総量が不変のまま夏季工事を冬季工事に回すとその分だけ夏季工事の就労者は減らさざるを得ないのである。