ビューア該当ページ

札幌冬季オリンピック大会とスキー場などの復元

657 ~ 659 / 1053ページ
 四十七年二月の札幌冬季オリンピック開催決定を前に、四十一年、市は滑降競技コースを支笏洞爺国立公園内の恵庭岳とする案を提出した。オリンピック開催のためとはいえ、二日間ほどの競技のために自然林の山岳部分四〇ヘクタールを皆伐し、男女別コースを作ることに国立公園管理の厚生省や北海道自然保護協会(昭39・12・1発会)などから大きな議論が起こった。同協会は既設の富良野スキー場の使用を要望し、井出賁夫(あやお)、高倉新一郎ら同協会員は英独仏日四カ国語による恵庭岳コース反対声明を国際自然保護連合(IUCN)宛に提出した。同連合は全理事の反対署名を集め、ブランデージ国際オリンピック会長に送り善処を求めたが、結果的にオリンピック終了後の森林復元を条件として、開設となった(井出賁夫 北海道自然保護協会の発足とその活動)。
 札幌オリンピック大会開催を契機に、スキー人口が大幅に増加し、市周辺部には相次いでスキー場が新設された。手稲山にはすでに「テイネオリンピアスキー場」が開設されていたが、五十年四月、地主の王子緑化(株)が、新たに四コースとリフト四基の開設を申請した。周辺一帯は四十七年に北海道自然保護条例に基づく「手稲山南自然景観保護地区」に指定されていたが、北海道は五十年五月に指定解除を決定し六月に告示した。これに対して六月十三日に「手稲山を守る市民会議」(全道労協、札幌地区労、西区勤労協、林政共闘)が結成され、札幌市にスキー場の開設反対を申し込んだ。事態を重視した市議会環境委員会が視察し、王子緑化(株)と懇談の結果、規模縮小などの変更がなされ、五十一年八月、当初よりスキーコース四二パーセント、リフト九五パーセント、立木伐採六一パーセントが縮小されて最終的合意となった(十四期小史)。
 続いて平成三年には、三月開催のユニバーシアード冬季大会にむけて、二年前から整備した豊平区有明地区の白旗山距離スキー競技場施設が完成した。しかしこの完成までには、市の「都市環境林」である白旗山のコース建設を巡って「札幌の自然を守る会」など、自然保護団体や市民グループから反対の声が上がった。白旗山(旧西山市有林)は面積一二〇〇ヘクタールの広大な森林で、昭和五十九年に「白旗山都市環境林基本計画」を策定し、戦前に植林されたカラマツ人工林を市民のふれあいの場として六十年から復元し、三〇年がかりで野鳥の保護と増殖など、夢の森林公園化を進めていたものであった。北海道自然保護協会などは、ユニバーシアード大会の開催自体に反対しないが、急勾配コースは一般市民向けではなく、短期間の国際大会にしか使えないなどの理由で反対した。結果的に林道を四割利用し、一一・八ヘクタールの森林を伐採することで着工となった(道新 昭60・4・19、平1・10・20、平3・1・12)。
 ところで、先の恵庭岳の復元にはアカエゾマツ、トドマツ、ダケカンバなどの苗を植林し、費用は約二億一〇〇〇万円にのぼった。四十八年には一応の施設撤去、植林を完成し四十九年からは補植、下刈り、害虫駆除の手入れも行われ日本では例のない大規模な森林修復の試みとなった。また、恵庭岳を三〇年後の平成十五年に調査した矢島嵩(北海道大学大学院農学研究科教授)によると、植栽した樹木は一〇メートルから一五メートルの樹高で順調に伸びており、残存率も高く一二年間にわたって補植された成果により草本ともに順調だが、コース内は過密状態の植林となり周辺と不調和であると報告された(矢島嵩 恵庭岳滑降競技場跡地の森林復元)。また、平成十年に開催した長野オリンピック冬季大会のスキー場は、恵庭岳を教訓とし、復元に膨大な費用を要する理由から、上信越高原国立公園内の志賀高原山岳部分での滑降、スーパー大回転競技場の建設を中止するにいたった。