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国際交流の動き

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 昭和五十五年以降、札幌市内における美術動向は一段と国際化の様相を深めていった。北海道立近代美術館の開館以来、なかば日常的になった国際展の開催とそれに付随する人的交流、カナダ・アルバータ州(道との姉妹州)との再三にわたる交換展などである。なかでも開館五周年を記念して昭和五十七年にスタートさせた「World Glass Now '82 世界現代ガラス展」(指名コンペ制、トリエンナーレ方式、平成六年まで五回開催)は、美術展を通して札幌の名を世界に知らしめる大きな契機となった。また(株)丸井今井の尽力で実現した平成三年スタートの「さっぽろ国際版画ビエンナーレ展」(平成十二年まで五回開催)は、毎回六〇カ国前後の国からおよそ三〇〇〇点~四〇〇〇点台の応募作品を数え、札幌発信の若手版画家の登竜門的な国際展として存在感を示した。
 並行して作家同士の国際交流も積極的になり、アメリカ、カナダ、北欧そして韓国などとの交流が一般化した。先述の「TODAY」や「プリントアドベンチャー」などグループによる活動のみならず、海外から招聘(しょうへい)を受け現地で個展を開く例は、枚挙にいとまがないほどの数になっている。
 そのほか平成十一年には、国内外の美術家の滞在及び交流を促進することを目的として「札幌アーティスト・イン・レジデンス」(S-AIR)がスタートしたこともかつてない新しい出来事だった。
 坪池栄子によると、「アーティスト・イン・レジデンスとは一六六六年にフランスが創設したローマ賞(受賞者をローマの研修施設ヴィラ・メディチに派遣して研修を支援)に由来するといわれている」「S-AIRの特徴は、建築家、ジャーナリスト、アーティスト等が実行委員会を組織し、民間主導で進めてきたところ。五年間で一五カ国・三一名のアーティストにホスピタリティを提供し、展覧会やワークショップを開催してきた。年間事業予算二〇〇〇万円の内、二分の一は委託事業や企業協賛、個人負担などで乗り切った」(今月のレポート 地域創造レター NO.109 平16)とされている。
 S-AIRは、翌十二年に第一回目の事業を実施、最終の十六年度には北海道立近代美術館で「国境を越えた美術の冒険」展を開き、この事業を締めくくった。時代の最先端を担う現代作家による作品制作や展示はもちろん、シンポジウムやワークショップなどの幅広い活動は、特に地元の若い作家層に新鮮な刺激を与え、同時に彼らに自らの仕事を世界に発信する意欲を醸成する貴重な機会となった。さらにこれら若い作家層と一緒になってボランティア活動に参加した一般市民も多く、結果的に現代美術が地域の人々に与える影響の大きさを実証したことなど、今後の地域文化の形成のあり方にも多大な示唆をもたらした。