記念事業としての他に、郷土史が必要視される理由も存在していた。それは各地区が札幌市の発展と共に、景観も大きく変わり地域の変貌が甚だしかったことである。そのために地区の歴史を記録しておくこと、その史料の発掘・保存が求められたことであり、地区の活性化、コミュニティづくり、地域への愛着心の醸成なども図られていたとみることができる。また、郷土史によって市民の歴史意識が高まり、地域の見直しに大きな役割をはたしていたといえる。
表11は主要な郷土史を掲載したものであるが、刊行年は昭和五十年代より平成の初年度にかけ集中している。中には『新琴似百年史』『新川百年』『丘珠百二十年史』などのように、一〇〇〇頁を超える大冊もある。新琴似では『新琴似百年史』以前にも、『新琴似七十年史』(昭32)、『新琴似町八十年のあゆみ』(昭41)、『新琴似九十年史』(昭51)を出しており、地域史には熱心な取り組みをしていた。貴重な史料の発見もみられ、特に『丘珠百二十年史』では膨大な丘珠村史料の発見があり活用されている。
表-11 主な郷土史 |
書名 | 刊行(年月) | 頁数 | 発行 |
琴似屯田百年史 | 昭49・10 | 309 | 琴似屯田百年記念事業期成会 |
郷土誌さっぽろ石山百年の歩み | 50・ 3 | 171 | 石山開基百年記念実行委員会 |
清田地区百年史 | 51・ 9 | 405 | 清田地区開基百年記念事業実行委員会 |
円山百年史 | 52・ 6 | 405 | 円山百年史編纂委員会 |
郷土史真駒内 | 52・10 | 264 | 郷土史真駒内編集委員会 |
白石歴史ものがたり | 53・ 1 | 431 | 白石区老人クラブ連合会 |
屯田九十年史 | 53・ 7 | 268 | 屯田開基九十周年協賛会 |
山口開基百年史 | 54・11 | 197 | 手稲山口開基百年記念実行委員会 |
拓北百年史 | 55・ 4 | 190 | 篠路拓北土地改良区 |
新川郷土史 | 55・ 4 | 289 | 新川郷土史編纂委員会 |
郷土誌すみかわ | 56・ 8 | 365 | 澄川開基百年記念事業実行委員会 |
平岸百拾年 | 56・10 | 553 | 平岸百拾年記念協賛会 |
厚別開基百年史 | 57・ 8 | 248 | 厚別開基百年記念事業協賛会 |
さっぽろ藻岩郷土史 八垂別 | 57・11 | 591 | 藻岩開基百十年記念事業協賛会 |
十軒 | 57・11 | 274 | 十軒神明宮協賛会 |
下野津幌郷土誌 | 59・ 3 | 310 | 下野津幌郷土誌編纂委員会 |
郷土誌みすまい | 59・ 5 | 448 | 簾舞開基百十年記念事業実行委員会 |
川下百年誌 | 59・ 5 | 368 | 川下開基百年記念事業実行委員会 |
風雪百年 | 59・ 5 | 255 | 藤野地区開基百年記念事業協賛会 |
上野幌百年のあゆみ | 60・ 9 | 371 | 上野幌開基百年記念事業協賛会 |
新琴似百年史 | 61・ 5 | 1297 | 新琴似開基百年記念協賛会 |
篠路烈々布百年 | 62・ 4 | 460 | 篠路烈々布開基百年協賛会 |
屯田百年史 | 平 1・ 2 | 793 | 屯田開基百年記念事業協賛会 |
郷土史南郷 | 1・ 3 | 260 | 南郷クラブ会 |
麻生のあゆみ | 1・ 5 | 489 | 麻生連合町内会 |
新川百年 | 2・ 5 | 1034 | 新川開基百年記念協賛会 |
西岡百年史 | 3・ 3 | 544 | 西岡開基百年記念祝賀協賛会 |
丘珠百二十年史 | 3・ 3 | 1181 | 丘珠開基百二十周年記念事業協賛会 |
太平開基百年史 | 5・10 | 620 | 太平開基百年記念協賛会 |
郷土史豊平地区の140年 | 9・ 8 | 752 | 豊平地区郷土史発行委員会 |
なえぼ | 10・ 4 | 257 | 苗穂連合町内会 |
丘珠百三十年小史 | 13・ 4 | 372 | 丘珠開基百二十周年記念事業協賛会 |
常盤開基百年記念誌 | 14・10 | 381 | 常盤開基百年記念事業実行委員会 |
南円山のあゆみ | 14・11 | 267 | 南円山連合町内会 |
幌西史誌 | 15・ 3 | 433 | 幌西史誌編集委員会 |
シノロ―140年のあゆみ― | 15・ 6 | 1041 | 協賛会 |
郷土史編纂の中からは、『円山百年史』の三関武治、『さっぽろ藻岩郷土史 八垂別』の川淵初江、『平岸百拾年』の斎藤忠一、中濱康光、『新琴似百年史』『丘珠百二十年史』の細川道夫など郷土史家も輩出されていった。
郷土史の編纂・刊行は、これからも各地区での記念事業として引き継がれていくであろう。ただ、なおいっそうの郷土史運動を高めるためには、今後、史料等を提供し編纂を支援する、センター的な施設が行政へ求められてくるであろう。