『おらが春』の構造

 文政2年(1819)1年間の句文集の体裁をとっていますが、単に日を追って俳句や文章を並べたものではなく、出版を念頭に、一貫したテーマのもとで構成されています。そのため文学性に富み、一茶の代表的な著作として高く評価されてきました。当時一茶は57歳で、円熟期を迎えていたのです。
 テーマの1つは、前年に生まれた娘、さとの死です。妙専寺(明専寺)の鷹丸の死、みちのく修行の中止などを伏線にして、さとの愛らしさを強調した上でその死を語るのは、巧みな構成です。
 次は、作品中を一貫して流れている、娘の死をも受け入れる「あなた任せ」という宗教的な境地です。「あなた任せ」とは、阿弥陀如来にすべてをお任せするということです。一茶は真宗の信者として、自己の在り方を再確認しているのです。
 また、自分がまま子であることを強調していることも注目されます。それを受け入れて生きるのも、また「あなた任せ」の境地です。