貿易の概況

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 箱館の貿易額は、昆布を中心とする海産物の輸出額が大部分を占め、大幅な出超のかたちである(表序-12、13参照)。輸出の大部分は、北海道産の海産物であるが、生糸、蚕種など東北地方からの移入品の輸出も見られる。津軽藩の商人も輸出を念頭において品薄の時期をみて津軽産の昆布箱館へまわす計画をすすめたり、仙台、秋田産のものもふくめた材木輸出を箱館の外国商人との間で検討したり(実現しなかったという)という動きを示していた(浅倉有子「箱館開港後における青森港と蝦夷地・北海道」『地域史研究はこだて』第4号)。南部藩は北蝦夷地警衛の物資調達のために箱館に開設していた「御国産売捌店」で「異人交易」をもおこなおうとしていた(『幕外』35-51)。箱館が、東北地方産物をふくめての大きな貿易の窓口になりそうな条件があったわけであるが、東北地方での産業発展の状況などから、大きな発展はみられないままだったのである。
 輸入の規模は小さいものであった。毛織物、木綿類がややまとまった額であらわれるが、艦船が高額を占めたり、鉄道用の鉄材がまとまってみられたり(茅沼の炭坑開発との関係と思われる)、日用品、雑貨がかなりの額であったりする。米不足の年に高額に米が輸入されるなど、「雑多性」(石井孝『幕末貿易史の研究』)が、箱館の輸入状況の特徴になっている。箱館の後背地としての北海道、東北地方の産業経済の発展状況による限度があらわれているわけで、箱館に於ける輸入品は居留外国人らの需要品だけのようにいわれる場合(『北海道史』第1)もあったのである。
 幕末期の全国的な貿易のなかでの箱館の比重も小さいものであった。表序-14によれば、貿易開始初年の安政6年を除けば、全国比で2~3パーセント以下の比重で、輸入については特に低い比重であった。この時期の貿易統計上は箱館の数値は無視してもよいという見方もあったほどである(石井前掲書)。しかし、明治10年代の統計では、全国に対する比重は一層低いものになる(表序-15)。明治期にはいってからの全国的な貿易の発展に、箱館の場合はついて行けない状況だったのである。幕末期では、むしろ昆布を中心とした海産物の輸出で、箱館貿易の意味は、やや大きかったのである。
 
表序-12 万延元年~慶応3年(1860~67)箱館港主要輸出品目(価額単位ドル)
万延元(1860)年
元治元(1864)年
品目
価額
同左%
品目
価額
同左%
昆布
39,362
24.68
昆布
309,246
74.54
大豆
18,973
11.90
干鮑
20,248
4.88
煎海鼠
17,384
10.90
生糸
17,307
4.17
生糸
12,332
7.73
スルメ
12,186
2.94
スルメ
10,927
6.85
9,522
2.30
干魚
7,765
4.87
帆立貝
9,494
2.29
干鮑
7,087
4.44
煎海鼠
8,365
2.02
その他合計
159,489
100.00
その他合計
414,847
100.00
文久元(1861)年
慶応元(1865)年
昆布
26,922
26.04
昆布
286,076
61.95
煎海鼠
25,316
24.49
生糸
48,950
10.60
干鮑
17,128
16.57
蚕種
36,800
7.97
人参
8,058
7.79
スルメ
25,336
5.49
生糸
7,177
6.94
干鮑
22,731
4.92
その他合計
103,383
100.00
13,686
2.96
文久2(1862)年
煎海鼠
12,420
2.69
昆布70,568
40.77
その他合計
461,815
100.00
人参22,740
13.14
慶応2(1866)年
干鮑14,495
8.38
昆布
306,460
58.78
スルメ13,562
7.84
蚕種
92,245
17.69
11,288
6.52
干鮑
57,220
10.97
魚油10,205
5.90
スルメ
27,850
5.34
生糸7,535
4.35
煎海鼠
23,039
4.42
煎海鼠5,085
2.94
その他合計
521,335
100.00
その他合計173,068
100.00
慶応3(1867)年
文久3(1863)年
昆布
382,764
59.91
昆布
176,460
66.68
蚕種
88,104
13.79
干鮑
22,702
8.53
煎海鼠
45,770
7.16
19,486
7.32
干鮑
44,069
6.90
煎海鼠
10,649
4.00
スルメ
23,426
3.67
スルメ
9,257
3.48
魚肥
23,124
3.62
その他合計
266,135
100.00
その他合計
638,861
100.00
石井孝「幕末における箱館貿易の諸問題」『地域史研究はこだて』創刊号より
 

表序-13 万延元年~慶応3年(1860~67)箱館港主要輸入品目(価額単位ドル)
万延元(1860)年
慶応元(1865)年
品目
価額
同左%
品目
価額
同左%
毛織物
4,482
34.06
呉絽
37,659
28.11
更紗
1,730
13.15
鉄道用鉄
25,117
18.75
薬品
1,560
11.86
綿織物
17,150
12.80
亜鉛
990
7.52
9,500
7.09
その他
4,395
33.41
砂糖
7,453
5.56
13,157
100.00
その他
37,097
27.69
文久元(1861)年
133,976
100.00
艦船
22,000
54.94
慶応2(1866)年
毛織物
5,349
13.36
呉絽
16,320
52.79
木綿類
2,811
7.02
2,000
6.47
更紗
2,403
6.00
雑貨
1,552
5.02
亜鉛
1,736
4.33
日用品
1,500
4.85
その他
5,741
14.35
1,330
4.30
40,040
100.00
その他
8,211
26.57
元治元(1864)年
30,913
100.00
艦船
47,500
34.35
慶応3(1867)年
更紗
15,212
11.00
117,254
53.65
毛織物
12,513
9.05
砂糖
31,188
14.27
10,060
7.27
毛織物
24,981
11.43
砂糖
9,180
6.64
日用品
17,665
8.08
その他
43,832
31.69
呉絽
16,378
7.49
138,297
100.00
その他
11,092
5.08
218,558
100.00
石井孝『幕末貿易史の研究』より


 

表序-14 箱館港貿易額 対全国比
全国
対全国比
安政6年
(1859
輸出
輸入
891,416ドル
603,161
1,494,577
86,861ドル
12,833
99,694
9.7%
2.0
6.7
万延元年
(1860)
輸出
輸入
4,713,788
1,658,871
6,372,659
159,489
13,157
172,646
3.4
0.8
2.7
文久元年
(1861)
輸出
輸入
3,786,566
2,364,609
6,151,175
103,299
40,039
143,338
2.7
1.7
2.3
文久2年
(1862)
輸出
輸入
7,278,525
3,881,765
11,160,290
173,399
11,537
184,936
2.4
0.3
1.5
文久3年
(1863)
輸出
輸入
12,208,218
6,199,101
18,407,319
266,135
30,132
296,267
2.2
0.5
1.6
元治元年
(1864)
輸出
輸入
10,572,223
8,102,288
18,674,511
414,847
138,297
553,144
3.9
1.7
3.0
慶応元年
(1865)
輸出
輸入
18,490,331
15,144,271
33,634,602
461,815
133,976
595,791
2.5
0.9
1.8
慶応2年
(1866)
輸出
輸入
16,616,564
15,770,949
32,387,513
521,335
30,913
552,248
3.1
0.2
1.7
慶応3年
(1867)
輸出
輸入
12,123,675
21,673,319
33,796,994
638,861
218,558
857,419
5.3
1.0
2.5
石井孝『幕末貿易史の研究』より

 表序-12、13の数値と合致しないところがあるが理由は不明である.
 
表序-15 明治10年代函館港貿易額全国比(単位 千円)
年代
輸出
輸入
合計
明治11年
(1878)
函館
全国
  722(2.7%)
 25,988     
   13(0.05%)
 23,965      
  736(1.2%)
 58,863      
明治13年
(1880)
函館
全国
  749(2.6%)
 28,395     
  222( 0.6%)
 32,875      
  971(1.5%)
 65,022     
明治15年
(1882)
函館
全国
  508(1.3%)
 37,722     
    7(0.03%)
 36,627      
  516(0.8%)
 62,168     
明治17年
(1884)
函館
全国
  379(1.1%)
 33,871     
    5(0.02%)
 29,447     
  384(0.6%)
 63,544     
明治19年
(1886)
函館
全国
  674(1.4%)
 48,876     
   16(0.05%)
 29,673      
  690(0.9%)
 81,045     
*函館の数値は『函館市史』統計史料編より(函館の貿易額は全北海道の貿易額を意味する)
 *全国の数値は『日本近代史辞典』(京大国史研究室編)の付録統計より