松前・福島地域の産物

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 では、銭亀沢地域と同じように古くからの和人地である道南の松前町周辺では、どのような産業構造だったのであろうか。文化六(一八〇九)年作成の「村鑑下組帳」(『松前藩と松前』第25号)および寛政九年の「松前地竝東(西)蝦夷地明細記」(北海道立文書館蔵 旧記一一九四、一一九六)によってみてみよう。
 「村鑑下組帳」には松前の東在(下及部村、上及部村、大沢村、荒谷村、炭焼沢村、礼髭村、吉岡村、宮歌村、白符村、福島村、知内村)、西在(根部田村、札前村、赤神村、雨垂石村、茂草村、清部村、江良町村、原口村、小砂子村)の村むら二〇か村についての記載がある。この中から稼業および産物の項目をみてみると、上及部村、下及部村、知内村を除く東在の村では、その稼業は春は船を仕立てたり雇われたりしての鯡取、夏は箱館在における昆布取、鮑取、秋冬は薪取、馬追、そして女は畑作仕付、海苔摘、昆布取手伝い、薪取などとなっている。また、その産物には細布昆布、鮑、海苔、雑魚などに加え、蕨、うどがあげられている。
 上及部村、下及部村、知内村の稼業としては春は薪伐出、馬追、賃取稼、夏秋は畑作、鮭漁(知内村のみ)、冬は薪伐出、女は畑作および山菜取である。産物は薪、野菜物、豆類、山菜類、細布昆布、鮭などとなっている。
 西在の村では、赤神村を除く根部田村ほか八か村で鯡取(雇)、昆布取、そい釣、薪取、女は海苔摘、細布取、畑作などが稼業としてあげられている。産物は海苔、鮑、雑魚、細布昆布、炭、薪、などである。
 また、「松前地竝東(西)蝦夷地明細記」によれば、東在の村むらの産物は、鮭、野菜類、雑昆布、鮑、海鼠、薪、炭、雑穀などとなっている。一方、西在では、鮑、雑魚、細布わかめ、薪、炭、雑穀などが産物としてあげられている。
 松前・福島地域も銭亀沢地域と同じように漁業に重点がおかれていた地域ということができる。
 しかし、銭亀沢地域の漁業は昆布漁が主であるのに対して、松前・福島では鯡漁が主であった。そして、この鯡漁も産物に鯡があげられていないことなどから考えて、前浜での漁ではなく、江差近辺から祝津、忍路、石狩あたりにかけての「西蝦夷地」への出稼漁であったと思われる(「村鑑下組帳」)。
 このような漁業の形態や種類の違いが、それぞれの地域における集落の発展や土地の所有形態に、どのような影響を及ぼすのであろうか。