早期末から前期にかけて気候の温暖化が急速に進行し、約6千年前の前期初めには気候温暖化の最盛期となる。年平均気温は現在よりも2~3℃高く、温暖化に伴って海水面が上昇し、今よりも2~3メートルほど海水面が高くなっていた(赤松、1969)。標高3メートル以下の低地には海が侵入し、海岸線には木の枝状に多数の入江が生まれた。このように海水面が上昇し、海が内陸に侵入することを海進とよび、この時の海進を縄文海進と呼んでいる。古武井川や尻岸内川の河口でも、河川沿いに海が侵入して入江になっていたと考えられる。
苫小牧海岸から17キロメートル内陸の千歳市美々には、美々貝塚と呼ばれる早期末から前期の貝塚がある。勇払原野のもっとも奥まったところにある、北海道では最も内陸に位置した貝塚である。貝塚を構成する貝の大部分はヤマトシジミとアサリであるが、暖流系のアカニシやウネナシトマヤガイなども含まれていて、北海道をとりまく各海の水温が現在よりも高かったことを示している。その頃、函館山はまだ津軽海峡に浮かんだ島であった。