潮流は『荒れ』と呼ばれ、船乗りや漁師たちが最も恐れる自然現象であった。潮流は潮の干満作用で何処にでも起こりうるものだが、岬、島の間を通るときは激浪となる。
津軽海峡はこの干満作用に加え、津軽暖流と千島海流(寒流)の異種海流が、それぞれ西と東から流れ、且つこれを阻む岬も本道側西から白神岬・汐首岬・恵山岬、相対し本州側、龍飛崎・大間崎・尻屋崎と存在する。したがって、この岬付近を流れる潮流は条件が相乗し激流となり危険な様相を呈する。
特に津軽海峡の東口−恵山岬から武井ノ島・汐首岬にかけての海況は、この暖流と寒流がぶつかり鬩(せめ)ぎあい激流となりあるいは反流し危険な様相を呈する。加えて、暖流と寒流の温度差が大きい春から初夏にかけては、船乗りが最も恐れる濃い海霧(ガス)に見舞われる。
一方、海岸の地形に目を向けてみる。恵山岬から古武井に至る一帯は恵山噴火の火砕流により形成された台地で、付近の海中には噴火で飛ばされてきた溶岩が、見え隠れしている。七ッ岩(岬)付近はその特徴をよく現わしている。又、寄貝歌・日浦・戸井原木海岸にかけては柱状節理の断崖が連なる海岸で、この海域も平磯や岩礁が多く危険地帯である。
このように津軽海峡東口は船舶にとって極めて危険な海域であり、江戸時代からの遭難は枚挙に暇はない(詳細は『第11節海難』に記す)。
柱状節理の断崖に建つ日浦灯台~遠くに恵山を望む~