「参考資料」戸井村漁業組合規約(明治三十二年頃のもの)

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       第一章 名称組織
第一条 本組合ヲ戸井村漁業組合ト称シ戸井村在籍漁業者ヲ以テ組織ス。
       第二章 組合区域
第二条 本組合区域ハ亀田郡小安村界以東、尻岸内村界ニ至ル海面全体ヲ以テ当組合所属海面トナシ該海面内ニ於テ本規約ノ効力ヲ有スルモノトス。
       第三章 組合事務所位置
第三条 本組合事務所ヲ亀田郡戸井村字館鼻二十三番地ニ置ク。
       第四章 組合目的
第四条 本組合ノ目的ハ北海道漁業取締規則ヲ遵守シ同業者一致協力シ漁業ノ弊害ヲ矯正シ後来漁業ノ発達ト物産ノ改良ヲ謀リ組合一般ノ福利ヲ増進スルニアリ。
       第五章 役員選挙法及権限
第五条 本組合ニ左ノ役員ヲ置ク
      頭 取   一名
      副頭取   一名
      評議員  拾弐名
      書 記   一名
第六条 組合役員ノ撰挙ハ組合在籍漁業者成年以上男戸主ノ互選トス。選挙人資格モ同上タルベシ。
    但シ書記ハ組合員過半数以上ノ同意ヲ得テ雇入ルモノトス。
第七条 頭取及評議員ノ選挙ヲ行フトキハ選挙日ノ三日前選挙権ヲ有スルモノニ投票用紙ヲ配布スベシ。其配布ヲ受ケタルモノハ選挙期日被選挙者ノ氏名ヲ記入シ選挙人名ヲ記シ捺印シ同日午前九時マデ組合事務所ニ差出シ同日正午十二時マデニ開票スルモノトス。但シ開票ノ際ハ必ズ選挙人三名以上ノ立会ヲ要スルコト。
第八条 前条ノ選挙ヲ行フ場合ニ投票セザルカ又ハ被選挙人ノ氏名分明ナラザルモノハ無効トス。但シ選挙ニ対シ異議ノ申立ヲ為スコトヲ得ザルモノトス。
第九条 当選者ハ投票数ノ多キ者ヲ以テ確定ス。若シ票数同数ナルトキハ年長者ヲ採ル。 ニ当リタル者は正当ノ事理ナクシテ辞スルコトヲ得ザルモノトス。
第十条 頭取ハ組合取締及諸般ノ事務ヲ総理シ此規約実行ノ責ニ任ズ。
第十一条 評議員ハ本組合ノ利害得失ヲ議了シ頭取ヲ補佐スルモノトス。但シ頭取不在ノ時ハ評議員中互撰ヲ以テ代理セシムルモノトス。
第十二条 書記ハ頭取ノ指揮ヲ受ケ組合ノ記録其他ノ庶務ヲ整理スルモノトス。
       第六章 会議ニ関スル規程
第十三条 本組合ノ会議ハ通常臨時ノ二種トシ、通常会ハ毎年一月、臨時会ハ頭取ニ於テ必要ノ場合ト認ムルトキ及評議員半数以上ノ申立アルトキニ開会スルモノトス。
第十四条 会議ハ評議員三分ノ二以上出席セルニアラザレバ開会セラレザルモノトス。但シ会議ノ報知ヲ受ケ出席セザル者ハ決議ヲ拒ムコトヲ得ズ。
第十五条 会長ハ頭取コレニ当ルト雖モ若シ頭取ニ於テ差支ヲ生シタルトキハ評議員ノ一名互選ノ上之ヲ充ツルモノトス。但シ議案ハ会長説明ナスト雖モ時宜ニヨリ書記ヲシテ説明スルコトアルベシ。
       第七章 加入退去者規程
第十六条 本組合沿海ニ於テ漁業採藻ノ許可ヲ受ケタルモノハ其旨頭取ニ申出テ組合ニ加入スベシ。
第十七条 組合加入者ニシテ廃休業セツモノアルトキハ其旨組合ニ届出ルモノトス。
第十八条 組合加入者ハ漁業採藻共其収獲高及売却代金ヲ組合事務所ニ届出ルモノトス。
第十九条 組合加入者ハ組合事務所ニ申出、左ノ船鑑ヲ受ケ各自所有ノ漁船ニ付着スルモノトス。
         戸第  号
           戸井村字   番地
              何    誰
          組合
          印
 
          明治 年 月
第二十条 前条船鑑ヲ受ケタルモノハ退去ノ際組合事務所ニ返還スルモノトス。
       第八章 組合経費負担規程
第二十一条 頭取ハ毎年十二月中翌年度組合経費ヲ予算シ通常会ノ評議ニ付スルモノトス。
第二十二条 頭取ハ前条決定シタル予算ヲ組合一般に周知スルモノトス。
第二十三条 組合費用ハ頭取若クハ評議員ノ一名ヲ互選シ保管セシムルモノトス。
第二十四条 頭取ハ組合経費ノ徴収薄及支出薄、収支整理薄ヲ作成シ会計ヲ明瞭ニシ毎年十二月中前年度ノ精算ヲ為シ評議員ノ認定ヲ経テ組合ニ広告スルモノトス。
第二十五条 役員報酬及旅費、日当左ノ通リ支給スルモノトス。
        頭 取  一ケ年 金参拾円
        評議員  一ケ年 一人ニ付 五円
        書 記  一ケ月 拾五円
        日当 部外一円 部内五十銭
        車馬賃 一里 拾五銭
       第九章 鑑札及入稼船規定
第二十六条 組合ニ加入シ漁業採藻兼製造ヲ営ムモノハ着業前組合事務所ニ出テ鑑札ヲ受クルモノトス。但シ漁夫ヲ雇入レ着業スルモノハ其住所氏名及年令ヲ記載シ組合事務所ニ届出ヅルモノトス。
第二十七条 鑑札料ハ何漁業ニカカワラズ一人ニ付金弐拾五銭ト定ム。
第二十八条 鑑札ヲ紛失若クハ毀損シタルモノアルトキハ直チニ其事由ヲ頭取ニ申出組合事務所ヨリ更ニ受クベキモノトス。但シ此場合ハ手数料トシテ一人ニ付金五銭ヲ即納スベキモノトス。
第二十九条 鑑札ハ漁業中携帯シ終業ノ際事務所ニ返還スルモノトス。但シ鑑札ハ其効用本人ニ限ルモノナレバ他ニ貸借売買スルヲ禁ズ。
第三十条 本組合外ノモノニシテ本組合内ニ来リ入稼漁業ニ従事スルモノハ組合ノ承諾アルニアラサレバ着業スルコトヲ得ザルモノトス。
       第十章 漁期、漁場、漁網、漁船規定
第三十一条 本組合ハ漁期ヲ左ノ通リ定ム
 鰮 春鰮 自六月二十日  夏鰮 自八月十五日  秋鰮 自十一月一日
      至七月十五日     至十月三十日     至十二月三十一日
 鰤 自九月一日  鰈手繰 自六月一日  昆布 自七月十五日
   至十二月三十一日   至八月三十一日   至十月十五日
第三十二条 本組合ハ鰮曳網ヲ左ノ五等ニ区別ス。
       一等 七反以上弐百四十間以上
       二等 六反 二百十間以上
       三等 五反 百八十間以上
       四等 四反 百十間以上
       五等 三反 百十間未満
      鰤差網目ハ二十五目及至三十目ト定ム。
第三十三条 本組合鰮建網(漁網、行成網)ハ北海道漁業取締規則ニ定メアル制限ヲ超ユベカラザルモノトス。
第三十四条 本組合ハ鰮漁船ヲ左ノ五等ニ区別ス。
       一等 胴船  二等 胴船  三等 持符船  四等 中船  五等 磯船
第三十五条 本組合ハ昆布採取船ヲ左ノ三等ニ区別ス。
       一等 持符船  二等 中船  三等 磯船
第三十六条 本組合ハ鰤釣船ヲ左ノ四等ニ区分ス。
       一等 川崎船  二等 持符船  三等 中船  四等 磯船
第三十七条 本組合ノ漁場区域ヲ左ノ通リ定ム。
       鰮建網 戸井村字原木小三郎澗ヨリ中歌界ニ至ルノ間
           同村字鎌歌旗岩ヨリムイニ至ルノ間
           同村字館鼻会所下ヨリ横平岩ニ至ルノ間
       鰮曳網 第一区字原木建網区域ヲ除ク一円
           第二区字小歌ヨリ浜中一円
           第三区字弁才澗一円
第三十八条 既設鰮其他ノ建網ニ要スルカキ網ハ猥リニ伸縮スベカラズ。但シ戸井村館鼻会所下ヨリ横平岩ニ至ルノ各網ハ拾五間以内ト定ム。
第三十九条 本組合内ニ於テ泥引網及泥引類似ノ細目網ハ勿論魚苗又ハ海藻等ノ妨碍トナルベキ器具ヲ使用スルコトヲ禁ズ。
第四十条  鰮建網漁業者ハ卸網ノ際頭取若クハ評議員ノ立会ヲ要スルコト。
第四十一条 本組合ハ夜間鰮漁業ノ為メ外ニ明松、暗号ノ規約ヲ締結スルモノトス。
第四十二条 鰮其他ノ建網漁業ヲ営ムモノハ猥リニ其位置ヲ変更スルコトヲ得ズ。
第四十三条 鰮漁業中、鰮ノ群来ヲ甲船先認シタル場合ハ乙船猥リニ投網スルコトヲ得ザルモノトス。
第四十四条 前条ノ場合甲船ノ投網シタル中を投網スルコトヲ禁ズ。但シ石二条ノ場合ニ於テ苦情等生シタルトキハ其隣網ノ船頭弐名以上立会之レガ可否ヲ定ムルモノトス。
第四十五条 新規出願ニ係ル鰮曳網、同建網其他ノ漁業ハ総テ組合評議員会ノ決議ヲ経ルニアラザレバ出願セラレザルモノトス。
第四十六条 鰮漁季中ハ沿海ニ於テハツパナスベカラザルモノトス。
第四十七条 鰤漁業ハ日出ヨリ日没マデト定ム。但シ日中ト雖モ鰮漁業者ニ妨害ナスベカラザルモノトス。
第四十八条 手繰網漁業期間中、漁業時間ヲ左ノ通リ定ム。
       自午后五時 至午前一時
第四十九条 前条漁季中ト雖モ鰮漁業ニ着手シタルトキハ該漁業ヲ中止スベキモノトス。
第五十条 鮑海参ハ頭取ニ於テ毎年其増殖ノ景況ヲ調査シ認可ノ上採捕セシムルモノトス。
第五十一条 海蘿及銀杏草ハ必ズ指頭ヲ以テ摘採シ刃物或ハ貝殻等ヲ以テ濫採スベカラズ。
       第十一章 昆布、鰮粕規定
第五十二条 昆布採取季節前ハ充分干場ニ砂石ヲ布キ湿気ヲ受ケザルヨウ注意シ、カリソメニモ真土其他湿気アル処ニ乾燥スベカラズ。
第五十三条 昆布採取後ハ該藻蕃殖ノ為メ組合一般海中ヘ石ヲ投入ツ且ツ昆布発生ノ障碍物ヲ除却スベシ。
第五十四条 昆布一把ノ量目左ノ通リ定ム
       一、元揃 弐貫目
       一、花折 一貫目
       一、駄昆布 八貫目
第五十五条 昆布製造三等ニ区別ス
       一、乾燥及品位ヲ精撰シ葉ノ揃ヒタルモノヲ上トス
       一、乾燥其他前項同様ノモノニシテ葉ノ長短不揃ナルモノヲ中トス
       一、質佳良ナリト雖モ雨天干ノモノヲ下トス
第五十六条 前条定メタル昆布ニ混同シ難キ元揃昆布ノ二番切或ハ採取ノ際切断シタルモノヲ駄昆布ト定ム。
第五十七条 鰮粕製造スルニハ土砂ヲ混ゼス煮沸シテ筒ニ入れ厳シク圧搾シテ玉トナスベシ。
第五十八条 鰮搾粕荷造方ハ左ノ雛形ニ従ヒ堅牢ニ結束シ中身露出或ハ脱漏ノ憂ナカランコトヲ要ス。
第五十九条 鰮其他ノ搾粕ハ壱苞量目皆掛二十五貫目ト定ム。
第六十条 本組合ノ出産ニ係ル鰮其他ノ搾粕昆布ニ限リ左ノ検印アルニアラザレバ輸出ハ勿論組合間ト雖モ売買スルコトヲ禁ズ。
        検印   検
第六十一条 前条検査期日ハ組合事務所ニ於テ五日前組合一般ニ周知スルモノトス。其着手ノ順次ハ評議会ニ定ム。
       第十二章 奨励及違約者処分
第六十二条 本組合期約ニ違反シタルモノハ壱円以上五拾円以下ノ科料ニ処シ其重キモノハ収獲品ヲ没収シ三日以内ノ漁業ヲ停止スルモノトス。
第六十三条 前条処分スル場合頭取ニ於テ少ナクトモ評議員半数以上ノ合議ヲ求メ処分スルモノトス。
第六十四条 本組合ハ加入シ漁貝漁法ヲ発明シ地方ヘ利益ヲ与フル顕著ナルモノハ組合評議ノ上相当ノ賞与ヲナスベキモノトス。
        第十三章  組合蓄積及救済方法
第六十五条 本組合へ加入シタルモノハ信実ヲ以テ交際シ殊ニ漁業中ハ危難互ニ救済シ且ツ粗暴ノ行為ナク、各自収獲セル幾分ヲ貯蓄スルモノトス。
第六十六条 本組合ハ左ノ収獲物ヨリ毎年万分ノ一ヲ徴収シ蓄積スルモノトス。
       鰮搾粕  昆布  鰤
第六十七条 本組合ハ貯蓄励行ノ為メ戸長ノ管理ヲ受クルモノトス。
第六十八条 前条徴収蓄積人名金額等ハ漏ナク記載シ事務所及戸長役場ニ備置クモノトス。
第六十九条 前条貯蓄ハ収獲物売却ノ上金銭ヲ以テ組合へ納メ組合ハ戸長ヲ経由シテ銀行若クハ逓信省貯金局へ預ケ置クモノトス。
第七十条 貯蓄金ハ組合員ノ転籍、転住、廃休業スト雖モ返付セザルモノトス。
第七十一条 貯蓄金ハ組合会ノ決議ニアラザレバ支出セザルモノトス。
第七十二条 貯金ハ左ノ場合ニ於テ支出ス
        一、漁業上改良試験ヲ要スルトキ
        一、組合員不虞ノ災害ヲ受ケタルトキ
        一、組合員ノ漁具漁法ヲ発明シ公衆ノ利便ヲナシタルトキ
        一、前項ノ外組合ニ於テ必要ヲ生ジタルトキ
第七十三条 貯蓄金ヲ支出スル場合ハ頭取ニ於テ臨時会ヲ開キ評議員ノ決議ヲ遂ゲテ戸長ノ承認ヲ受ケ支出スルモノトス。
                       (字館町 河村武男提供)