我が椴法華村においても、この法令に基づき漁業組合申合規則の草案が作られ、明治十七年九月函館県に提出された。その後この草案は函館県の指導により一部更正が行われ、明治十八年一月二十八日函館県令時任為基の認可を受けたのであるが、この時認可を受けた『椴法華村漁業組合申合規則草案』を次に記すことにする。
明治十八年
亀田
漁業組合規約(北海道蔵) 勧業課
上磯
椵[ママ]法華村漁業組合申合規則草按
第一章 主意
第一條 明治十七年(五月)本懸甲第十五号御布達漁業組合條令ニ基キ水産濫獲粗製ノ弊ヲ豫防シ将来殖産改良ノ方法ヲ設ケ漁業ノ隆盛ヲ企図スルモノトス。
第二章 名称
第二條 本組ヲ椵(ママ)法花村漁業組合ト称ス
第三章 漁業者
第三條 本組區域内ニテ捕漁採藻ヲナスル者ハ総テ本則ヲ遵守スベシ。
第四章 區域
第四條 本組合ノ區域ハ当廳ノ指定スル処ニ従ヒ組合外ノモノハ其區域内ニ於テ漁業ヲナスコトヲ許サス。
但シ他の組合ト〓モ特ニ条約ヲ定メ漁業ヲ許シタルモノハ此限ニアラス
第五章 総代
第五條 総代及副総代ハ組合中本籍漁業者ヨリ投票ヲ以テ公撰シ其任期ハ満二ケ年ト定メ毎年其半数ヲ改撰スルモノトス。但シ改撰ノ際ハ前任者ヲ再撰スルモ妨ナシ。
第六條 正副総代年俸金貳拾円トス
第七條 総代ハ本組一般ノ事務ヲ総理ス。但シ副総代ト諸事合議スヘキコト若モ総代不在ノトキハ副総代勤ヲ掌管スヘシ
第八條 正副総代ハ同時ニ他行スルヲ得ス尤モ不得止事故アルトキハ組合中ヨリ代理ヲ置キ縣廳ヘ届出ヘキコト
第九條 正副総代任期中濫リニ辞退スルコトヲ許サス。尤モ事実不得止ニ出ルトキハ組合協議ノ上改撰スルモノトス。
第十條 本組内各水産物ノ製造良否ヲ調査ニ若シ不良ノモノアルトキワ懇篤説諭改良セシメ故ニテ悪製ヲナスモノアルトキハ違則ヲ以テ取扱ヒ勉メテ此弊ナサラシムヲ要ス。
第十一條 正副総代ハ漁業組合條令第十條ニ據リ各漁取獲高ヲ取纒メ雇人逃亡等ノ調査ヲナスヘシ。
第十二條 漁業上願伺届等総テ正副総代連署スヘシト〓モ水産物製造及製造器并漁具等新発明ニ罹ル類ハ其使用及製法ノ良否ヲ考査シ意見書ヲ副ヒ進達スヘキコト。
第十三條 正副総代ハ営業者ノ間隙ヲ見計ヒ年四回集合セシメ水産上将来ノ得失ヲ談話講究スルモノトス。
第六章 鑑札
第十四條 本組ニ編入ノ漁業者(家族及雇夫共)ハ総代ニ就キ鑑札ヲ受領シ執業ノ際ハ必ズ携帯スルモノトス。
第十五條 前條ノ鑑札ヲ受クル者ハ戸主家族等ニ不拘鑑札壱枚ニ付一ヶ年金四銭ツツ差出スヘシ。
但シ他ノ組合ヨリ編入ノ者ハ昆布取獲スル者ハ壱名ニ付金壱円其他ノ漁業ヲナスモノハ金三拾銭ツツヲ差出スヘシ
第十六條 各自携帶漁業鑑札ハ其効用本人ニ限ルモノナレハ決シテ他ニ貸與スルコトヲ許サス。
第十七條 漁業鑑札紛失又ハ毀損セシトキハ速ニ事由ヲ総代ニ申出更ニ鑑札ヲ請ヒ其手数料トシテ金貳銭ヲ差出スヘシ
第七章 採藻
第十八條 採藻ハ昆布若布布苔ノ各種トス。
第十九條 手操昆布ハ竿前收獲ノ日ヲ夏土用前二十日ト豫定シ元揃昆布ハ夏土用入一日前ト豫定ス布苔ハ四月一日ヨリ一二三番迠ニ採取トス総代ヨリ前以テ組合ニ通知スヘシ
第二十條 昆布採收ノ就業及止業ハ総代旗ヲ以テ示シ就業ニハ旗ヲ下ゲ止業ニハ旗ヲ揚ルモノトス。
第二十一條 昆布ノ乾燥及ビ結束ハ勉メテ帶濕混砂等ナキ様製造スヘシ。若シ粗製ノモノヲ発見スルトキハ改良ヲナサシムヘシ、尤ラ住所氏名ヲ記シタル木札ヲ毎壱地ニ施入スヘシ。
第二十二條 若切布苔ノ乾燥及ヒ結束荷造モ前仝上。
第八章 捕漁
第二十三條 捕漁ハ鮭鰤鰊鰮鱈鮊雑魚ノ各種トス。
第二十四條 鰤引網ハ各自ノ場所、目標ヲ立置網ヲ曳廻スモノトス必ス他ノ域江入ルコトヲ許サス。
第二十五條 鰤建網漁ハ従来ノ場所ゟ他ヘ転スルヲ得ス。
第二十六條 鰤差網漁ハ曳綱及ヒ建網ノ妨害ニ相成場所江差込コトヲ得ス。
第二十七條 鰮漁ハ各自ニ魚見船ヲ出シ置其相図ヲ得テ捕獲スルモノトス。
但シ甲魚見船ヨリ相図ヲ揚ケシトキ乙ヨリモ相図ヲ揚クルコトアルトキハ甲ノ船ヨリ網ヲ拭廻シ乙ノ魚見船ヨリ几五間ヲ隔テ曳廻スモ妨ケナキモノトス。
第二十八條 鰮絞粕ハ乾燥及荷造ハ勉メテ帶濕混砂等ナキ様製造スヘシ若シ粗製ノモノヲ発見スルトキハ其改良ヲナサシムベシ。
第九章 漁具
第二十九條 鰮漁具ハ引網ザル網二種ノ外ハ本組内ニ於テ使用スルヲ許サス。
第三十條 鰤漁具ハ引網建網差網三種ノ外ハ本組内ニ於テ使用スルヲ許サス。
第三十一條 鮭鱒鰊漁具ハ建網引網差網三種ノ外ハ本組内ニ使用スルヲ許サス。
第三十二條 鱈鮊漁具ハ投縄(一名ハエ縄)ノ一種ノ外ハ本組合内ニ於テ使用スルヲ許サス。
但シ鱈鮊漁ハ夜中繩ヲ投ツルモノナレハ各船毎ニ黙燈ヲ掲ケ各自ノ妨ニ不相成様注意スヘキコト。
第三十三條 雑魚捕獲ハ泥引網乃ニ引類似細月網ヲ使用セアルハ勿論ナレトモ魚苗又又、海藻ヲ妨害ヲ與ル確証アル器具ハ縣廳ノ認可ヲ経テ使用ヲ停止ス。
第三十四條 昆布漁具ハ鎌刈、子ジリ鉾二種ノ外ハ本組内ニ於テ使用スルヲ許サス。
但シ昆布採収ノ末ニハ后来ノ生立ヲ謀ル為メ毎年海草ヲ除取スルモノトス。
第十章 違約
第三十五條 第五章、第十條、第六章第十四條、第八章第二十八條、第九章第二十九條ヨリ第三拾四條ニ違背スルモノハ金壱円ヨリ少ナカラス金五拾円ヨリ多カラサル金ヲ差出スヘシ尤モ悪製ノ物品等賣買スルヲ得ス。
但シ違約ノ取扱ヲ受ケ資力ナキモノハ一週間以下ノ出漁ヲ停止スルコトアルヘシ。
第三十六條 前條ノ場合ニ於テハ違約金額并ニ出漁停止ノ見込ヲ立テ其詳細事由ヲ具状シ郡長ノ認可ヲ経テ取扱フモノトス。
第十一章 収支
第三十七條 鑑札料其他ノ収入金徴収及正副総代給料其他費用仕拂方法ハ都テ郡長ノ認可ヲ経テ施行スルモノトス。
第三十八條 諸収金ニテ諸費仕拂不足ヲ生スルトキハ組合一同協議ノ上出金スルコトアルヘシ。
第三十九條 諸費諸拂ノ景況ハ毎年十二月郡役所及組合ニ報告スルモノトス。
第十二章 雑件
第四十條 此規則中実施ノ上不都合ノ廉アルトキハ組合(寄留出稼ノ者ヲ除ク)協議ノ上弁宜更正シ縣廳ノ免許ヲ受クベシ
右之通本組申合規則相定、実行仕度候有、御認可被下度此投上申仕居也
[亀田郡椴法華村漁業組合]
明治十七年九月 副総代 荒木藤八
同
総代 三ツ石岩助
函館縣令時任為基殿
前書上申之趣不都合無之ニ付奥印之上進達仕候也。
当戸長成田源之亟代理
十七年六月廿三日 筆世 佐藤紀八郎
勧第九十三号
伺之趣認可候条第三条第十二条、第二十一条、第二十八条、第三十三条、第三十五条附箋ノ通更正施行スヘシ。
明治十八年一月廿八日
函館縣令 時任為基
(前に記した条文は附箋のとおり更正した後のものである。)
以上のような規約による椴法華村漁業組合が明治十八年一月に認可され運営されることになったのであるが、一年後にはこの規約の昆布に関する項(第四十一条乃至第四十五条)が追加されている。次に規約の追加分を記すことにする。
第四拾壱條 昆布ハ長切元揃ノ二種ト定メ長切昆布ハ壱把ノ量目産地ニ於テ八貫四百目ニ結束シ結テ中込ナク品位ヲ精撰シ且中下三本ニ分ち上等ヘ雨天昆布亦は決シテ混ス可カラス。中等ハ自然昆布良質トイエドモ品位次ナルモノトス雨天昆布等ハ総テ下等トス。元揃昆布ハ壱把ノ量目従前ノ通産地ニ於テ弐貫式百目トシ結束ハ総テ中込ヲセス其品位ニ依テ長切昆布ト同シク且中下三等トシテ其餘長切昆布元揃ニ入レ難キモノハ総テ駄昆布壱把四貫弐百目トシ此他食用ニ供シ難キ不良質ノモノハ決シテ右各種ノ結束ニ入レルヘカラス
第四拾弐條
総テ昆布ハ左ノ雛形ノ改メ札ヲ漁業総代ヨリ申受ケ把束ノ中ニ押入表面ニ上中下ノ名称ノ壱字ヲ朱書シ漁業総代ノ検査ヲ経テ賣出スモノトス。
第四拾三條
漁業総代検査ノ上中入レ等アルモノハ上面上等ナリト〓モ中等下等ト相当ニ等級ヲ繰下ケ改メ札ヲ入レシムヘキ事。
第四拾四條
漁業組合ニテ産出スル昆布魚粕等賣買ニ用ユル秤量ハ総テ鉄衡ヲ囬ヘ必ス組合ニ備置キ此秤ヲ標準トシ売買ス可キ事。
第四拾五條
第四拾壱條ニ定ムル処ノ昆布等級及結束製造上ニ不充分ノ扁アルトキハ漁業総代ヨリ是レカ改良ヲナサシムヘシ。此場合ニ於テ改良ヲ拒ムモノハ第拾五章第三拾五条ニ拠リ五拾円ノ違約金ヲ課シ売買ヲ禁スヘキ事。
但違約ノ取扱ヲ受ニ資力ナキモノハ本組合ヨリ除名スルコトアルヘシ。
長切、元揃トモ上中下之ニ倣フ是レ把束ノ中ニ押入ノ事
函館縣渡島國亀田郡椴法華村漁業組合改
上何昆布 | 漁業組合 取締之章 | 同郡同村 出産人何之誰 漁業総代ノ小印 |
総テ名称ハ昆布ニ記入ノ事。
以上記した内容の漁業組合が明治十八年一月に認可され(明治十九年一部増補)運営されるようになったのであるが、設立当時の具体的な運営内容や統計資料については、未知の部分が多くこれからの調査研究を待たなければならない。