寛政三年の旧六月、海路アイヌの舟に案内されて文化のさきがけともいえる香りを届け、その紀行とともに今にその歌を残してくれたのは紀行家菅江真澄である。郷土の開基の項でその全文を紹介しているので、真澄がこの地を訪ねて詠んだ和歌を記す。
寛政三年旧六月 菅江真澄が詠んだ歌 十三首
恵山 あら磯のいはほにぬるゝわしの羽に妙なる文字や波のかくらん
椴法華 嶋つ鳥親のをしへを居ならびてひなもはねほす蝦夷の磯山
銚子の碕 蝦夷人の毒気の矢鏃とりむけて居るかたしるく見ゆるはまなか
古部 しらゆきのふるへば夏といはがねにくだけておつる飛泉の涼しさ
木直 蝦夷の海いましほひるかはまひさし尚きし高くあらはれにけり
尾札部 夜ふかしと〓(くいな)は叩く真木の戸をあけむとかけの告て鳴こゑ
臼尻柿の島 あら磯の波もてゆへるかきねしまへだてもうすき夷の笹小屋
ボヲロ あやむしろあやしけれども蝦が家にこよひしきねん床夏の花
をりたちて涼しかるらん夷人のたもとにかかる滝のしら糸
鹿部 夕まぐれ泉郎のたく火も影そへてあしの丸屋にほたるとぶなり
本別 海近きたきつはや川ふかければ汐のひるまを待渡りぬる
ふらばふれぬるもいとはじ五月雨もけふをなごりの雨づつみして
路のべの朴の木檞風すぎて露吹きこぼす風の涼しさ