明治二十二年(一八八九)二月、和徳小学校教員を中心に「自他楽(じだらく)会」と称する読書グループが結成された。中心は和徳校教員だが、他校教員や一般人の中から加入する者もあった。「自他楽」は「自堕落(じだらく)」をもじって反語的に使用したものであろうか。最初一二人で発足した自他楽会は、将来弘前に図書館を建てることを目的とし、規約第一条に「本会ハ各自所有ノ書籍ヲ交換シ更ニ新著訳書雑誌ヲ購読シテ智識ノ発達ヲ計リ後来書籍館ヲ設立スルコトヲ目的トス」とうたっている。自己の知識だけでなく、地域の図書館建設を目的としたところに、当時の教員たちの視野の広さと、新時代への意欲がうかがわれる。
会員一二人、会費月額五銭で発足した読書グループ「自他楽会」は、和徳小学校を事務所にして、明治二十二年から大正七年(一九一八)まで、実に三十年の長きにわたって続けられたが、その間グループの中心となって活躍したのは、同校若手教員たちで、自他楽会創立当初の山中嵯峨之助、三浦武三郎、中村良之進、高山亀代作、棟方悌二などである。
自他楽会の活動の記録は現在弘前市立図書館に保存されているが、積み重ねると三〇センチ以上の高さになり、彼らがいかに会の活動を丹念に記録していたかがわかる。