新教科書の採用

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文部省は昭和十六年から十八年にかけて国民学校初等科の教科書を全面的に書き直したが、この大修正では戦時色を強く示した教材を盛り込み、高学年に進むにつれて、戦時版としての非常時教材の姿をとった。修身は、皇国思想や戦時下の心構えを教えるためにも最も重要な教科であるので、これまでと内容が著しく変わった。一例として二年用の『ヨイコドモ 下』の第一九課には、日本の国が世界で最高の国で、しかも強い神の国であることを教えている。
 日本 ヨイ 国、キヨイ 国。世界ニ 一ツノ神ノ国。
 日本 ヨイ 国、強イ 国。世界ニカガヤク エライ 国。
 このような日本を神国とする修身教材は各学年に採り入れられ、日本の国を守る考えを持たせて、戦争完遂に努めさせようとしている。国語教科書は一、二学年用が『よみかた』、三学年から『初等科国語』となっているが、この中にも当時の情勢を反映した戦争教材が数多く盛り込まれている。
 戦時版の教科書として、内容と構成と述べ方が著しく改変されたのは国史の教科書である。これは皇国思想をつくるため最も重要な役割を果たすものと考えられていたからである。開巻第一『神国』の初めは「高千穂の峯」、次いで「橿原の宮居」「五十鈴川」と続いているが、児童の戦意高揚と皇国思想の強化をねらっていることがわかる。算数や理科の教科書は科目の性格から、戦時版というほどの修正はなされなかったが、『カズノホン 一』には軍艦や航空母艦を背景に多くの軍用機の絵が掲げられ、それを数えるように求めている問題や、日の丸の旗を立てた戦車を示して、その数を計算する問題が出ている。
 この教科書の編成を考えると、当時の教育に軍が横槍を入れた様子と、政府が戦争完遂のためどんなに狂奔したかがよくわかるのである。

写真57 初等科習字手本(昭和17年)


写真58 国民学1年「カズノホン」(昭和16年)