進駐軍将兵への対応策

295 ~ 296 / 965ページ
敗戦後まもないとき、進駐軍兵士が婦女子を陵辱するとのデマが全国的に横溢した。これは各庁府県警察部の特高調査で軒並みに報告されるなど、全国的に蔓延した珍現象だった。流言やデマが蔓延したのは、戦時中の鬼畜米英思想が深く浸透しており、「鬼畜」に婦女子を陵辱されることが、地域指導者の極度の警戒心とあいまって人々の間に恐怖感を抱かせたからである。こうした地域指導者たちの言動に大きな影響を与えたのが、中国などアジア各地から帰還した軍人たちの言動だった。彼らが、かつての蛮行を記憶しており、それらが地域指導者や婦女子の思想に影響していたのである。実際には進駐軍兵士が全国各地で一斉に婦女子を陵辱する異常現象はなかった。けれども婦女子に対する強姦事件があったのは事実であり、物品の窃盗・搾取などは各地で数多く報告されていたのである。
 政府は新聞紙上や回覧板などを活用して通牒を発し民心の安定に努めた。内務省では各庁府県宛に、進駐軍の不法行為を未然に防ぐよう、新聞などを駆使して呼びかけた。『東奥日報』は進駐軍による暴行六件、掠奪(りゃくだつ)そのほか不法行為三八件と報じ、九月五日これらの行為を未然に防ぐため内務省からの指示を掲載している。具体的な内容は以下のとおりである。
一、戸締を厳重にすること。
二、婦人の服装は更に厳格にすること。
三、不用不急の者は夜間外出せぬこと。殊に婦人は夜間少人数で歩かぬこと。
四、万一不法にも家宅に侵入された時は大声を出して救助を求めること。
五、不法将兵に対しては最後迄抵抗し、噛付くとか、引掻くとか、肩章をもぎとるとか証拠となるべきものを残すこと。

六、隣組でお互に警戒すること。
七、万一暴行掠奪などの行為を行つた際に決して泣寝入りせぬことゝ明確なる証拠を提示して、必ず届出ること。

八、時計、万年筆その他貴重品を目につく箇所に所持しないこと。

婦女子陵辱の事実があったからこそ、二や三をはじめ、女性たちに注意を促す条項が示されたのである。このほかにも進駐軍は平和進駐である旨、隣組や回覧板などで徹底するよう指示が出されている。