下野幌層の貝化石は、基底の砂礫層と上部の青灰色シルト層とに含まれ、それぞれ、構成する種類が異なっている。
表-2 下野幌層の貝化石群
まず基底砂礫層の貝化石群についてみることにする。広島町北の里付近で、昭和四十七年ころ、客土用の土採取が行われ、かなりの面積で地面が掘り込まれていた。そこには地表に露出していない下野幌層下部の亜炭をはさむシルト層やその下位に続く基底の砂礫層が顔を出し、その中に多くの貝化石が含まれていたのである(写真1)。
写真-1 下野幌層の貝化石の産状
(広島町北の里)
この貝化石群は、ダイシャカニシキ・コシバニシキ・トウカイシラスナガイ・プロフルビアなどの絶滅種(*1)を含むほか、エゾサンショウガイ・エゾタマガイ・エゾボラの仲間・エゾタマキガイ・エゾキンチャクガイ・ホタテガイ・エゾワスレガイ・キタノオオノガイなどを多く含むものである。そして、これらの貝化石は掃き寄せられたように密集して堆積しているが、二枚貝は、ほとんど、貝殻が合わさった状態になっている。それは、生息した海域付近でそのまま化石になったことを示すものである。また、エゾボラ・タマガイ・マルフミガイの仲間で代表されるように、全体として寒流系の貝類が多いことも、この貝化石群の特徴である。同定された種類は、巻貝一五種、二枚貝二六種、腕足類一種の合計四二種で、絶滅種の比率は一〇パーセント強である。
写真-2 下野幌層の貝化石
共に絶滅種 ダイシャカニシキガイ(上)とムカシオナガトリガイ(下)
このような貝化石群を含む基底砂礫層は、北の里のほか、音江別川流域や野幌森林公園内の「北海道開拓の村」へ通じる開拓大橋付近、瑞穂池付近、大沢園地などにも分布している。
上部シルト層の貝化石群は、このシルト層の下部層準と上部層準から発見されている。
下部層準の貝化石産地は、広島町の輪厚川流域と野幌森林公園内の大沢園地である。ここでの貝化石群の構成は、ホタテガイ・エゾイシカゲガイ・オオノガイなどの海生種である。上部層準のものは、もみじ台付近の野津幌川やその支流の小野津幌川流域にみられ、マガキ・コベルトフネガイ・アサリ・ヤマトシジミが採集されているが、マガキやヤマトシジミなど、高鹹水ないし中鹹水に生息する貝類が多く含まれている。
これらの貝化石は、すべて現生種で、現在の北海道近海に生息しているものであるが、上・下層準で生息環境が異なっていることが注目される。つまり、このシルト層の堆積環境が海水―汽水(*2)―淡水へと変化したことを物語っているのである。
*1 絶滅種(ぜつめつしゅ) 地質時代に生息した記録は残っているが、現在の地球上に生息していない生物。
*2 汽水(きすい) 淡水と塩水が混じっている水。半淡半鹹水(かんすい)。潟や河口域の塩分濃度三〇~〇・五パーミルの水を汽水という。塩分濃度により、低鹹水・中鹹水・高鹹水に分類される。