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御手作場総経費の内訳

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 上述のようにイシカリ御手作場は、幕府倒壊により明治元年(慶応四年)をもってその経営費は打ち切られ、またその経営を差配してきた大友も翌二年には去り、以後札幌村として新生していくのであるが、この慶応二年より同四年に至る三カ年間、大友の取り扱いの下に御手作場として注がれた経費の内訳を最後にまとめておきたい。
 イシカリ御手作場の経営において、その目的達成のため開墾場の造成・整備に、また入植農民に対する手厚い扶助や手当として多くの経費を費やしていたことはすでに述べた。しかしそれらにとどまらず、御手作場の運営のためにそれ以外の支出もまた多くみられる。これらを各年ごとの『石狩御手作場開墾御入用請払仕訳書上帳』(大友文書)によって列挙してみると、開墾取扱所として購入した物品に、川船(五艘)、丸木舟(一艘)とともに鋤簾・鋸・秤・筆墨紙などがあり、また支払分として、大友自身や開墾世話向として用した手付の貞助への扶持、黒鋤頭への別段手当、大工・人足等の手間賃、農夫入植時ならびに人足派遣の折の道中費・旅籠代、各種物資の運搬費・駄賃・借船料、黒鍬・人足等への褒美・酒代、それに茶代・薬代なども含まれている。さらに多くの貸付金・拝借金の費目もみられる。それは農夫への合わせて一一〇両三分二朱、大友への五〇両、木挽の安之助三九両、鍛冶の作松三五両三分三朱、黒鍬の佐五右衛門と長助合わせて一八両三分三朱、計二五四両三分が記帳されている。ただしかし、この貸付・拝借金は慶応四年十一月にすべて「下切り」として貸付金から支給金に切り替えられている。
 以上のような「その外」の諸経費は、慶応二年に金一五七両二分と銭二三九貫九五〇文、同三年に金九七両三分と銭四二〇貫五六三文、同四年には金三三四両一分と銭一七四貫六八九文が計上されており、これら三カ年の総額は金五八九両二分と銭八三五貫二〇二文にのぼっている。
 さてここで、前述の用排水路・土手・道路橋梁・諸家作等の造成・整備に要した「普請分」の費用、農民への米塩噌・家財・農具・家作分・開墾手当等に支出した「農民手当分」、それに「種物買入分」といま述べた「その他」の費用とを、一表としてみたのが表1である。これによってみると、箱館奉行所の当初の目途では、イシカリ御手作場経営の年間予算を金三〇〇〇両としており、したがって三カ年では金九〇〇〇両となるはずであったが、現実の受入額は金六七三三両余にとどまっていた。また払出において、「農夫手当分」が全支出額の六割を、「普請分」はほぼ三割を占めていることは、開墾場としての条件を整備し、しかる上に手厚い保護を与えて農民の定着をはかるという、大友の経営計画を反映する結果であったといえよう。
表-1 イシカリ御手作場開墾請払勘定表
慶応2年慶応3年慶応4年
受入両  分  朱両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金 2,191・ 3 ・ 1金 3,951・ 1 ・ 0金 2,486・ 2 ・ 0金 6,733・ 3 ・ 1
文  分文  分文  分文  分
永  74・ 0永 130・ 9永  2・ 3永  96・ 4
払出農民手当分両  分  朱両  分  朱
金  339・ 1 ・ 0金  339・ 1 ・ 0
貫  文貫  文貫  文貫  文
銭  1,837・720銭 12,531・947銭  9,272・566銭 23,642・233
米塩噌銭  1,175・875銭  8,247・286銭  7,700・572銭 17,123・733
家財銭  378・029銭  585・079銭  109・236銭  1,072・344
農具銭  112・016銭  166・699銭  183・560銭  462・275
家作分銭  324・000銭  324・000
開墾手当両  分  朱両  分  朱
金  339・ 1 ・ 0金  339・ 1 ・ 0
貫  文貫  文
銭  173・400銭  3,532・883銭  955・198銭  4,661・481
普請分両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金   13・ 2 ・ 0金   30・ 0 ・ 0金   43・ 2 ・ 0
貫  文貫  文貫  文貫  文
銭  5,407・579銭  6,134・672銭   47・600銭 11,589・851
用排水路銭  3,996・854銭  2,828・460銭  6,825・314
用水土手銭  839・800銭  542・300銭  1,382・100
道路橋等銭  241・457   543・250銭   47・600銭  832・307
諸家作両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金   13・ 2 ・ 0金   30・ 0 ・ 0金   43・ 2 ・ 0
貫  文貫  文
銭  329・468銭 2,220・662銭 2,550・130
種物買入分両  分  朱両  分  朱
金   20・ 2 ・ 3金   20・ 2 ・ 3
貫  文貫  文
銭   16・463銭  321・045銭  337・508
その他両  分  朱両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金  157・ 2 ・ 0金   97・ 3 ・ 0金  334・ 1 ・ 0金  589・ 2 ・ 0
貫  文貫  文貫  文貫  文
銭  239・950銭  420・563銭  174・689銭  835・202
合 計両  分  朱両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金  178・ 2 ・ 3金  111・ 1 ・ 0金  703・ 2 ・ 0金  993・ 1 ・ 3
貫  文貫  文貫  文貫  文
銭 7,502・568銭 19,408・227銭 9,494・855銭 36,405・650
金換算合計両  分  朱両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金 1,282・ 0 ・ 0金 2,965・ 1 ・ 0金 2,099・ 3 ・ 0金 6,347・ 0 ・ 0
文  分文  分文  分文  分
永  6・ 3永 151・ 0永  52・ 2永 209・ 5
残金両  分  朱両  分  朱両  分  朱両  分  朱
金  909・ 3 ・ 0金  985・ 3 ・ 0金  386・ 2 ・ 0金  386・ 2 ・ 0
文  分文  分文  分文  分
永 130・ 9永 229・ 9永 200・ 1永 200・ 1
(注)ⅰ) この表は、慶応2・3・4年の『石狩御手作場開墾御入用請払仕訳書上帳』によって作成した。
ⅱ) 「受入」欄の慶応3・4年の金額には前年度残金を含む。
ⅲ) 「払出」欄の「計」は、慶応2・3・4年の合算数値である。
ⅳ) 慶応2年の「農民手当分」欄の細目の金額に文書において誤記があるとみえ、合算しても文書記載の集計値と齟齬する。ここでは同年払出「合計」とともに、文書記載の数値を基本としてかかげた。