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市民意識の喚起

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 この生活環境の整備への関心は、次いで新聞を通じての市民意識を向上させる論調となる。特に前記の屎尿処理やゴミ処理など衛生に関する認識を喚起する記事が多く載せられる。これは、開拓地への中継点となる札幌が移民を通じて伝染病の蔓延地となり、また札幌周辺村落への病気の中継地となる可能性が高まったからである。当時本州などでの伝染病は港を通じて全国へ広まることが多かった。港が全国の人の流動の中継点であったからである。それと同様に札幌は、諸港を経て札幌へ到着した移民たちの保有した伝染病を奥地開拓地へ中継する役割をになうことにもなる。その札幌が衛生上不備であれば、中継点札幌にも伝染病が巣喰い、札幌の周辺村落へ広がる可能性が大きくなる。そのため札幌での伝染病蔓延を予防するため、屎尿処理やゴミ処理などを中心とする衛生上の認識を高める必要があったのである。特に伝染病の流行がおさまるとその意識が薄れて市街が汚れるという新聞の指摘は、衛生観念の持続を喚起しているわけである。これらを違う視点から見ると、道都札幌の市民の認識として、全道的視野を要求されはじめていることを示しているとも解することができる。そして中継点札幌での衛生観念の向上は、周辺村落や奥地の開拓地への衛生観念の波及にもつながることなのである。
 また道路や下水など官が作ったものを批判し、よりよいものを要望するという意識は、税金の使われ方や協議費配分への関心を持つことであった。たとえば新聞記事であるためまだ事件の詳細は不明だが、二十八年に大下水工事などに手抜き工事が発覚し、総代人会で追及される事件が起こっている。この事件などは協議費の使われ方への関心を示すことになる事件である。このように、下水や道路など官側が設けた施設への批判が道庁時代には生じてきているのである。これらは区制実施が間もなくでもあり、札幌区政への関心を高めるものであり、市民意識を高揚させるものであった。
 さらに紙上では、生活環境や施設設備の充実などに対する区役所や道庁の対応の不備を批判するだけではなく、たとえば塵芥投棄者が罰金刑を受けたなどの記事を載せている。これなどは市民に対しても、生活環境や施設設備などの問題への認識不足を批判していることを示している。
 以上のような新聞記事は都市社会の一幕というよりも、札幌が土木的建設時代から精神的なものも含めた都市形成の一段高い段階に移行したことを示すものではなかろうか。