『繁昌記』には物価並びに職業別給与についての記載がある。ところで二十二年は不作で、したがって二十三年時の米価が高騰し、村尾元長の『北海道事情一班』に、「六月二四日、米価漸次騰貴シ札幌ノ小売相場四斗入一俵(白米上)五円六拾五銭二登ル。有志者協議救済法ヲ議ス」とある。『繁昌記』の記事を踏まえて『北海道庁勧業年報』及び『北海道庁統計綜覧』によって二十二・二十三年次の札幌の物価並びに諸職種の給与を検討してみる。
　職種によって給与の上昇率に差があるが、日雇の日当が上昇したのは、札幌の市街地拡充による道路、下水道等の諸工事等が起こり、また米価高になったからで、一日の賃金二五銭以上五〇銭であった。しかも、「靴は雪中必要なるを以て冬期職工賃金五十銭乃至一円五〇銭」と『繁昌記』は冬期通勤に靴が必要ともなるので職工の日当が高かったような書き方をしている。なお人口の増加につれ家屋の増築工事の需要が増し、大工の一日の賃金は四五銭から六〇銭まで、左官以下指物師まで大工と同じとある。なお参考までに北海道庁調べによる二十二・二十三年の札幌区農工諸雇賃金及び札幌・小樽の物価表を掲載する(表13・14・15)。



　『北海道庁統計書』には和洋服仕立業者の被雇用者の一日の労賃が記載されているが、『繁昌記』では和洋服の仕立代の請負代を記述している。それによると、「裁縫師は縫賃和服単衣一枚一〇銭、袷(あわせ)一五銭、綿入二〇銭、絹布羽織(きぬものはおり)三五銭、小袖(こそで)三〇銭にして洋服は種々ありと雖ども一円七、八〇銭以上礼服は七円位の相場なり」と。そして、鍛冶及び桶職は農具その他日用品器物の製作でなかなか繁昌しており、また本道では四季共に農耕や物の運送に馬を使役し、特に暮から冬季はその多忙の季節であること、殖民地の常として酒、菓子の消費が高く、地酒一升一八銭より二二銭まで、大阪下り酒一升三〇銭以上三五銭位とある。さらに続けて、「テックイ(鰈の一種)真鰈(まがれい)の如きは長さ一尺位のものにして冬季は一〇銭に五枚若くは三枚を購ふべく、鳥獣肉も今や肉食漸く行はれ売口よく一斤三十銭以上五十銭まで牛肉二十四銭位、豚肉十五銭が相場にて、米は一俵を三九と称し三斗九升入を以て売買す」とある。即ち三斗九升入を四斗の計算で販売したものであろうか。