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私有権

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 札幌四兵村の給与地合計は一四二六万坪(約四七〇六ヘクタール)にのぼり、そのうち現札幌市域には九二パーセントにあたる一三一〇万坪余があった。この土地は前期兵村で兵役満期の年から二〇年間、後期兵村は一〇年間国税、地方税を免除される特典があった。しかし三十四年北海道地方費法公布にともない地方税の課税対象となり、国税免除のみ継続する。一方、給与地は入地から三〇年間譲渡や質入書入を禁じられ強制執行の対象外とされた。その間は個人の所有であっても自由な処分のできない条件付私有地で、売買はもちろんのこと土地を抵当とする金融の途がなく、違法反則地は国に没収されることになっていた。
 ところが後備役になると給与地を密かに借金の言質にしたり、将来見込の仮売買契約を結んだり、戸籍上養子縁組をして土地を養子に相続する形式で事実上売買する株養子行為が目立ち始めた。
    屯田兵の恐慌
(前略)各兵村にては其売買の行はるゝことなり。近頃に至り一層盛んとなりたるのみならず、札幌附近に於ける兵村は向後十年乃至十一二年を待たずして所有権を移転せらるべく、殊に地価騰貴せる影響として買収するもの甚た多きを加へ、今や屯田兵給与地の売買は殆んど公然の秘密となれり。而して其売買の方法は彼の一般人民の普通貸下地を売買する如く、公示引渡手続の履行は即ち私有権移転迄の間停止条件付と為し、公正証書を以て契約を締結するにあり。斯くて其物件は該契約を遂げ代金の受授を了すると同時に買受人に引渡すべしと雖も、兵籍を脱せざる限りは該地を立去る能はざるを以て、更に一反歩一円五十銭乃至二円位を以て賃借人となる者あれども、元来屯田兵給与地は所有権を移すの期長く、加ふるに一般農民の如く金員の貸借も自由ならざる事情あるを以て価額格外に安く、現に円山琴似等にて地味善良に且便利なる個所にても一反歩の売買代価五六円に過ぎず。其未墾地に至りては一坪三四厘位なりと。
 然るに此の事遂に屯田兵司令部の耳にする所となり、左なきだに屯田兵の諸規則は総て励行せんとしつゝある折柄、右の次第故司令部にても大に苦慮せられ昨今取調中の趣なるが、屯田兵の規則に拠るときは其給与地は今尚ほ官物の取扱たれば、前記売買の如きは無論無効に帰せらるべきは当然なりと雖も、之れが売買を為したる屯田兵も処罰を受けざるべからざるのみか、買主に対しては損害賠償の責を免かるべからず。去れば此の事件にしていよ/\其筋に於て厳重なる処分を励行せらるゝに至らば、一大恐慌を来すならんとぞ。
(北海道毎日新聞 明治二十九年五月六日付)

 このように公然化した土地売買の実態と地方自治制に伴う地方税負担問題を解決すべく、三十四年四月給与地の保存登記を許可し、六カ月以内に手続きする場合は登録税免除としたので、一斉に登記請求がなされ土地台帳に登録されていった。これにより全く自由な売買、譲渡、質入書入が可能になり、土地所有権の移動が大幅に行われた。さらに後備役満期を迎えると身分的拘束が解消し、土地とともに人の動きが活発になって、兵村の姿は大きく変わっていったのである。