家族教令は二〇条からなり、屯田兵とともにその家族を対象としたのが特徴といえる。最初の項は次のように述べている。
一、汝等の服する屯田兵役は、兵役相続の法ありて、独り兵員の一身に止まらず、延ひて子弟にも及ぶものにて、屯田兵の一家は取も直さず往昔の武門武士の列に加はりたると等しければ、兵員は勿論家族に至るまで、専ら忠節を重んじ武勇を尚び廉恥を思ひ志操を堅くし、苟くも武門武士の体面を汚す様の事、これあるべからず。
これに続けて、②屯田兵の身命は天皇に捧げたのだから、病気をしたり罪を犯すことのないよう衛生に注意し言行を慎むこと。③家族も急な出戦に備え、平生から用意しておくこと。④一家心を協はせて農業に励むこと。⑤兵員が兵役を尽せるよう家族は開墾耕稼に従うこと。⑥上官を父母と心得、その命令訓示を守ること。⑦武器を叮嚀に手入し、兵員外は父兄でも手を触れてはいけない。⑧被服は定められた場所に置いて、補修洗濯を命じられた外、家族はさわってはいけない。靴は軍用外はけない。⑨一家苦楽を共にし、全村が一家親族のように良風美徳を養生すること。⑩常に質素倹約を守ること。このあと独立自営と互助の法、忠孝武勇信義礼儀の子弟教育、虚礼廃止の葬祭、質素な祝儀と平時の酒宴禁止、毎月の法話と全村親睦、私利を捨て公共の利益、賻奕禁止、清潔衛生、郷里の風習の中で教令に合うものだけを維持するよう定め、最後に次の項を置いた。
二十、兵員家族にして一人たりとも此教令に違ひ不都合の言行ある時は、独り其者一身一家の名誉利害に拘はるのみならず、延ひて兵村全体の名誉利害に関すれば、一家内は申すに及ばす他人に於ても、其之れあると知りたるときは密に其本人に訓誡忠告をなし、速やかに改むる様相勗むべし。訓誡忠告再三に及ぶも尚改めざるときは上官に申出で、何分の所置を仰くべし。
家族教令は兵村生活の憲法として兵員とその家族を強く律し、大きな影響を及ぼした。新琴似兵村が「他兵村に比してあらゆる点に於て、出色の栄誉を荷ふに至れるは、該教令をよく遵守せる結果」(新琴似兵村史)と、入地五〇年後に述懐しているように、兵村特有の気風が生成されていったのである。
写真-5 琴似兵村の現況(平成3年4月撮影)