大正十二年十二月に設立された「
北海道畜牛研究会」は、
北海道の酪農振興に大きな役割を果たしたが、農業機械化に関する寄与は、主として外国人農家を招聘して、西欧の農機具ならびに作業体系を
北海道に伝えたことである。すなわち、畜牛研究会の献策を容れて、
北海道庁は集約的農業が最も発達した西欧の農業経営法を摂取すべく、
北海道地方費をもってデンマーク人農家二戸、ドイツ人農家二戸を大正十二年以降五年契約で招聘し、
札幌近郊ならびに十勝の土地を与えて模範経営を行わせた(表2)。「直接内地の農民を指導するといふのでなく、自然に習ひ覚えしめる風にしたい」(宮尾舜治
北海道庁長官)というのが最初からの狙いであったので、自由耕作に任せ、彼ら自身の意向に従って経営させたが、その農機具装備は次のとおりであった。〔エミール・
フェンガー〕デンマーク製プラウ一、カルチベーター一、板ハロー一、ウクルトハロー一、ホースホー一、ジッグザックハロー一、スプリングハロー一、培土犁一、ドイッ式播種器一、根菜切断器一。〔モーテン・
ラーセン〕プラウ一、カルチベーター一、二列スカッフラー一、板ハロー一、種子撰別器一、ローラー一、ジッグザックハロー一、へーレーキ一、ウクルトハロー一、ドイツ式播種器一、馬鈴薯撰別器一、モーア一。
氏名 | エミール・フェンガー | モーテン・ラーセン | フリードリッヒ・コッホ | ウィルヘルム・グラバー |
国籍 | デンマーク | デンマーク | ドイツ | ドイツ |
所在 | 琴似村 | 豊平町大字 | 十勝国清水村 | 十勝国帯広町 |
| 北海道農事試験場内 | 平岸村真駒内 道庁種畜場内 | 明治製糖会社地内 | 北海道製糖会社地内 |
耕作面積 | 5町歩 | 15町歩 | 10町歩 | 10町歩 |
経営形態 | 主畜農業 | 混同農業 | 甜菜耕作 混同農業 | 混同農業 |
契約期間 | 5年 | 5年 | 5年 | 5年 |
北海道庁内務部『外人農家概況(第一次訂正増版)』(大14)より作成。 |
外国人農家が右のような畜力作業機を用いて、入地の年からすでに八寸の深さに耕起して全圃場にわたって厩肥や石灰を施し、深耕の理想を普通作物一尺二寸、甜菜一尺四寸において計画的に地力維持に努めたこと、耕起から整地にいたるまでは反覆丁寧をきわめ、耕土の永続的改善を図ったことなど、
北海道農民に与えた感銘と影響はすこぶる大きいものがあった(
北海道農業発達史 上巻)。