それに比べ東京方面では震災復興を目当てに仕事を求めて上京するものが多く、しかも日雇等を含むいわゆる自由労働者中、失業状態にあるものが増大していた。このため内務省社会局長は、震災の影響と財界の不況とが重なって失業者の生活が窮迫しているので、漫然と地方から出稼ぎに上京するものたちへ見合わせるよう通牒を出して警告するのだった(北タイ 大14・2・5)。
大正十四年十月一日、全国一斉に国勢調査が実施されたが、全国的に失業者の増加をみたことからはじめて失業統計が調査項目に加えられた。この調査の結果、札幌市および付近を含めた地域の有業調査人口二万八六一〇人に対し失業者は九四一人で、失業率は三・二九パーセントであった。この内訳を給料生活者、一般労働者、日雇労働者の三種でみてゆくと次のようであった。
内訳 有業者人口 失業者 失業率(%) 給料生活者 一〇七三一人 四九一人 四・五八 一般労働者 一四七六二人 三一三人 二・一二 日雇労働者 三一一六人 一三七人 四・四〇 |
(内閣統計局 失業統計調査速報 大14) |
以上からもわかるように、札幌の場合、有業者に対する失業率でいうならば、給料生活者と日雇労働者の方が一般労働者よりも高い失業率ということがいえる。しかも有業者人口では給料生活者の占める割合が三七・五パーセントとかなり高いことが知られる。
昭和に入ると、財界の不況により会社、工場等の事業縮小、操業短縮、従業員等解雇が進行した。このため、北海道庁社会課では、昭和四年九月以降道内六都市および支庁における失業の実態を推計調査したところ、四年九月に約一万人だった推計失業者は、七年に入ると約二万六〇〇〇人に近い増加をみた。その詳細は表18によってみることができる。この表は、昭和戦前期を通じてもっとも不況のいちじるしかった時代の失業状況を、数字で示したものとして貴重なものであるが、そのなかで注目すべき点をあげると次のとおりである。
表-18 昭和4年~7年代の全道失業の推計数表 |
月別 | 給料生活者 | 日傭労慟者 | その他の労働者 | 計 | ||||||||||||
有業者 推定数 | 失業者 推定数 | 失業率 | 有業者 推定数 | 失業者 推定数 | 失業率 | 有業者 推定数 | 失業者 推定数 | 失業率 | 有業者 推定数 | 失業者 推定数 | 失業率 | |||||
4年 9月 | 104,816人 | 4,694人 | 4.3% | 73,625人 | 2,547人 | 3.2% | 113,696人 | 2,394人 | 2.1% | 292,137人 | 9,635人 | 3.3% | ||||
月別 | 調査人口 | 失業者 | 失業率 | 要救済者 | 調査人囗 | 失業者 | 失業率 | 要救済者 | 調査人口 | 失業者 | 失業率 | 要救済者 | 調査人口 | 失業者 | 失業率 | 要救済者 |
5年 1月 | 109,792 | 5,226 | 4.8 | 311人 | 80,024 | 6,721 | 8.4 | 1,168人 | 104,068 | 4,257 | 4.1 | 443人 | 293,884 | 16,204 | 5.5 | 1,922人 |
6年 1月 | 101,010 | 3,660 | 3.6 | 106 | 78,345 | 10,775 | 13.8 | 3,238 | 118,222 | 6,544 | 5.5 | 1,969 | 297,577 | 20,979 | 7.0 | 5,332 |
月別 | 給料生活者 | 日傭労働者 | その他の労働者 | 計 | ||||||||
男 | 女 | 計 | 男 | 女 | 計 | 男 | 女 | 計 | 男 | 女 | 計 | |
7年1月 | 3,899人 | 896人 | 4,795人 | 15,926人 | 3,197人 | 19,126人 | 6,855人 | 2,742人 | 11,597人 | 28,683人 | 6,835人 | 35,518人 |
北海道労働部職業安定課『北海道職業行政史』(昭24)より作成。 |
一つは、失業者推定数が、調査を始めた昭和四年九月の九六三五人に対して昭和七年二月には三万五七六六人と、三・七倍の増加をみたことである。内訳としては給料生活者が四八三三人、日雇労働者が一万八六二六人、その他の労働者が一万二三〇七人となっている。この三つの数字の対比のなかで、日雇労働者の失業が多いのは北海道の特色で、土木、建設といった各種土木事業従事者が多く、事業中止や縮小などによって労働市場に排出された労働者の多かったことを示すものといえる。
二つは、失業者数に冬季と夏季でいちじるしい変動がみられることである。これも北海道の特色である。昭和五年一月から十二月までの一年間でみると、一月から四月までと十一月から十二月までとでは一万から約二万人の失業者数に対し、五月から十月までは一万人を下回っていることが知られる。そのことは『北海道概況』昭和七年版の社会問題の項の失業状況で、
尚本道特有の失業状況として留意を要するは労働者の冬季失業である(中略)輓近経済界の不況益々深刻を極めるに伴ひ事業の縮少、休止の結果親方、雇傭主の窮乏となり或は労銀所得の減少となり又労働者に於ける失業等に因り往年の如き例に依るを得ず、為に冬季労働者の休業状況は益々深刻を極め例年の夏季労働期に比し冬季の失業労働者は殆んど倍加の情勢を示して(後略)
といみじくも述べている。
次に具体的に北海道庁社会課が公表した札幌市ほか各市及び支庁ごとの失業者推計数を『北海タイムス』から拾ってみると表19のごとくであった。この表によってみるに、札幌の場合、昭和四年十月段階で一〇六八人の失業者が七年一月には四六八〇人と四・三倍にも増加し、かつてない深刻なまでの失業者を抱えていたことが知られる。それとともに、道内六都市を比較すると、はじめ函館市が群を抜いていたが、六年一月以降は小樽市が札幌市を上回る失業者数を示し、七年一月段階では札幌市の一・五倍の七二三八人にも増加しているのがみられる。
表-19 昭和初期 道内各市および支庁の失業者推定数表 (北海道庁社会課調査) |
月別 | 札幌市 | 函館市 | 小樽市 | 旭川市 | 釧路市 | 室蘭市 | 支庁 | 計 |
昭4.10.1 | 1,068人 | 3,280人 | 2,620人 | 1,773人 | 348人 | 168人 | 1,171人 | 10,428人 |
『北タイ』(昭4年11.13, 6年1.22, 6.5, 12.20, 7年1 .23, 2 .22, 4.25, 7.22)より作成。数字は史料のまま。 |
これら失業者の失業前の職業を調査したのが、昭和五年の国勢調査によった表20である。六都市・支庁でみてゆくと、札幌市の場合、大別としては工業がもっとも多く、三四・二〇パーセントで職工や腕に特殊技能をもつ職人たちが含まれている。次に公務自由業で、二八・〇一パーセントとなっている。これは官公庁の雇、事務員に加えて官公吏そのもの、教員から軍人、鉄道、通信、電車などの従業員等が含まれている。いうなれば札幌の場合の失業は、職工と公務自由業といった職業階層にもっとも強く現われたものとみられる。また小樽・函館の場合は交通業、すなわち港に関わる運輸業といった職業階層に強く現われたのではなかろうか。
表-20 昭和5年 道内各市および支庁職業別失業者数および比率 |
市・支庁 | 農業 | 水産業 | 鉱業 | 工業 | 商業 | 交通業 | 公務自由業 | 家事使用人 | その他 | 総数 | ||||||||||
男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | 男 | 女 | |
札幌市 (比率) | 21人 | 3人 | 3人 | ‐人 | 25人 | ‐人 | 378人 | 14人 | 83人 | 8人 | 88人 | 4人 | 307人 | 14人 | 14人 | 4人 | 173人 | 7人 | 1,092人 | 54人 |
2.09 | 0.26 | 2.18 | 34.20 | 7.94 | 8.03 | 28.01 | 1.57 | 15.70 | 100.00 | |||||||||||
旭川市 (比率) | 15 | 1 | 3 | ‐ | 3 | 1 | 91 | 1 | 27 | 2 | 36 | 3 | 64 | 2 | 2 | ‐ | 38 | 5 | 279 | 15 |
5.44 | 1.02 | 1.02 | 31.29 | 9.86 | 13.27 | 22.45 | 0.68 | 14.63 | 100.00 | |||||||||||
小樽市 (比率) | 15 | 1 | 12 | ‐ | 10 | ‐ | 244 | 8 | 100 | 2 | 477 | 4 | 134 | 11 | 21 | 2 | 308 | 12 | 1,321 | 40 |
1.18 | 0.88 | 0.73 | 18.52 | 7.49 | 35.34 | 10.65 | 1.69 | 23.51 | 100.00 | |||||||||||
函館市 (比率) | 1 | ‐ | 22 | ‐ | ‐ | ‐ | 135 | ‐ | 65 | ‐ | 244 | 2 | 124 | 6 | 3 | 1 | 31 | 1 | 625 | 10 |
0.16 | 3.46 | 0.00 | 21.26 | 10.24 | 38.74 | 20.47 | 0.63 | 5.04 | 100.00 | |||||||||||
室蘭市 (比率) | 2 | ‐ | 4 | ‐ | ‐ | ‐ | 64 | ‐ | 8 | ‐ | 46 | ‐ | 41 | 3 | ‐ | ‐ | 50 | 1 | 215 | 4 |
0.91 | 1.83 | 0.00 | 29.22 | 3.65 | 21.00 | 20.09 | 0.00 | 23.29 | 100.00 | |||||||||||
釧路市 (比率) | 4 | ‐ | 2 | ‐ | 6 | ‐ | 29 | ‐ | 5 | ‐ | 26 | ‐ | 15 | ‐ | 1 | ‐ | 55 | ‐ | 143 | ‐ |
2.80 | 1.40 | 4.20 | 20.28 | 3.50 | 18.18 | 10.49 | 0.70 | 38.46 | 100.00 | |||||||||||
支庁 (比率) | 669 | 153 | 279 | 9 | 504 | 18 | 1,051 | 43 | 177 | 15 | 422 | 8 | 507 | 31 | 60 | 8 | 1,010 | 87 | 4,679 | 372 |
16.27 | 5.70 | 10.33 | 21.66 | 3.80 | 8.51 | 10.65 | 1.35 | 21.72 | 100.00 | |||||||||||
計 (比率) | 727 | 158 | 325 | 9 | 548 | 19 | 1,992 | 66 | 465 | 27 | 1,339 | 21 | 1,192 | 67 | 104 | 15 | 1,665 | 113 | 8,354 | 495 |
10.00 | 3.77 | 6.41 | 23.26 | 5.56 | 15.37 | 14.23 | 1.34 | 20.09 | 100.00 |
『昭和5年国勢調査報告』第4巻 府県編1 北海道(内閣統計局 昭9)より作成。 |