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生産管理闘争の波及

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 昭和二十一年には道内の炭鉱労組を中心に生産管理(経営管理)戦術が頻発した。石炭増産と炭鉱ストライキ回避は生産復興を急ぐGHQの至上命令であった。炭鉱労組の生産管理は、経営側の労務管理体制が瓦解している中で交渉の主導権を握るための不意打ち戦術であり、同時に組合指導部が労働者を掌握するための出稼督励運動でもあったが、その波は札幌にも及ぶ。金子鉄工場従組の生産管理は二月十四日、労組連盟や総同盟道連の斡旋で全面的に組合側の要求に沿って解決し(道新 昭21・2・21)、十一日には手稲鉱山労組が共産党の指導で生産管理に入り、同月の道新従組に続いて、四月には三越札幌支店従組が、商業関係で全国初の経営管理を決行した。資材・資金難による零細工場の閉鎖や経営再編も続く中で、札幌でも争議件数の三割で生産管理が採用され(表22)、手稲鉱山争議が組合側の譲歩で解決するのを除き多くは組合の要求に沿って終結したが、いずれも炭鉱・鉱山とは異なった様相を呈した。
表-22 昭和21年札幌市域における組合生産(経営)管理闘争
組合名組合代表者参加組合員数上開始年月日
下解除年月日
組合側の要求事項
金子鉄工場
従業員組合
柴田泰一郎40
余人
21年 2月 7日
   2月14日
解雇者復職,賃金本給20割値上げ,物価手当100円・家族手当20円・通勤手当実費支給,有給休暇実施,食糧・作業衣確保,工場経営参加,団体協約承認,8時間労働制実施など12項目
手稲鉱山
労働組合
三上三次郎1,000
余人
21年 2月11日
   2月22日
標準賃金値上げ(坑内18円・坑外15円),賃金査定の合議,公休日出勤2倍支給,悪徳幹部退陣,不良労務者解雇,団体協約確立,退職手当10倍増額,凶作見舞金会社負担,有給生理休暇即時実施,公傷者本賃金支給,応召者家族手当支給,罷業中賃金支給,経営参加ほか
北海道新聞社
従業員組合
新谷虎之助1,300
余人
21年 2月21日
   3月14日
社内民主化(団体協約締結・経営協議会設置),収入3倍引上げ(本俸10割増,臨時・物価・世帯・燃料・食事・住宅手当支給),飢餓突破資金(1,000円+家族1人300円・独身者500円)支給,重役総退陣
三越札幌支店
従業員組合
加藤弼四郎130
余人
21年 4月17日
   5月 4日
賃金本俸10割値上げ,物価手当(家族持ち200円・独身者100円等)・家族手当100円・独身者燃料住宅手当,飢餓突破資金(1,000円+家族1人300円ほか)等支給,団体協約,有給生理休暇,店内民主化
松橋精機
労働組合
藤村房枝120
21年 6月13日
   7月 4日
工場閉鎖反対・即時操業再開,経営協議会設置,反動分子5人追放
北光精機従業
員労働組合
長浜好太郎87
21年 8月 2日
22年 1月28日
会社経営方針の明示,団体協約即時締結,飢餓突破資金1人500円支給,家族手当本人含め100円・独身者200円支給
北海道自動車
販売(株)従業
員組合総連合
(不明)247
21年10月 4日
  10月10日
会社分離独立に当たり全従業員完全雇用実施,家族手当を除く収入12割増額,会社組織変更時特別賞与支給,労働協約即時締結
北海道新聞』,『資料北海道労働運動史』(終戦―講和),『労働争議調整事件集録』,ほっかい新報社史料刊行委員会『北海赤旗・トラクター・北海新報―復刻縮刷版』,『北海道新聞三十年史』,北海道新聞労組『わが三十年史』より作成。
表記載のほかに,帝国石油北海道鉱業所管内の札幌・北見・厚真・石狩各事業所従業員組合で結成した北海道帝国石油従業員組合連合(330人)が,18項目の待遇改善要求で昭和21年3月31日から5月21日まで経営管理を実施した。

 重役総退陣を要求に掲げた道新従組の経営管理は、新聞単一の提唱で日本労働組合総同盟(総同盟)に対抗し東京で開催された、全日本産業別労働組合会議(産別会議)準備会に合わせて決議し(道新 昭21・2・22)、一カ月後に組合の全面勝利で終結する。しかし、争議中から組織が混乱して組合再編が行われた手稲鉱山労組と同様、ここでも争議解決後、共産党員主導の組合幹部らへの反発から組織分裂寸前の危機に直面し(道新労組 わが三十年史)、大幅な組織再編後、さらに後述の「五三名事件」に波及していった。