ビューア該当ページ

畜産の動向

324 ~ 328 / 1053ページ
 畜産の動向についてはいくつかの論点にしぼってみていくことにしたい。
 第一に、畜産全体の動向を明らかにすべく、まず、主要家畜の飼育状況の推移をみると、乳用牛・豚・鶏の三作目のすべてがこの時期、飼育戸数・頭羽数を大幅に減少させた。他方で、乳用牛(一四頭から四五頭へ)、豚(一六三頭から六〇三頭へ)、鶏(一七八五羽から六五七六羽へ)という具合に、三作目の全てが一戸当たり飼育頭羽数を大幅に増加させている(表55参照)。
表-55 主要家畜の飼養状況の推移
年度乳用牛
戸数頭数戸数頭数戸数羽数
昭251,7782,33039,622
 302,6132,25733,436
 353,6603,40951,578
 403,1495,44658,134
 452633,78922712,764325175,934
 501423,04912920,985163290,932
 551061,6229619,34574218,302
 60841,6127014,83134163,850
平 2661,5313712,0521287,400
  7411,933114,850730,300
 12301,35363,618426,300
『札幌市統計書』各年、『札幌市農業』各年、『市政概要』各年による。

 次に、粗生産額の推移をみると豚と鶏が文字どおりけた外れに落ち込み粗生産額全体に占める割合も豚(昭和五十年の一八・〇パーセントから平成十二年の四・二パーセントへ)、鶏(同じく九・〇パーセントから一・八パーセントへ)とが大きく減少したのに対して、乳用牛の減少は緩やかであり、粗生産額全体に占める割合(四十五年の七・三パーセントから十二年の一四・七パーセント)はむしろ増加している(表47参照)。
 このように、作目ごとにやや違いがないわけではないが、三作目の全てがピークと比べてその生産を大きく後退させたことは明らかである。そして、それは本巻で対象としている時期において、一口に言って畜産経営環境、とくに大都会のそれが、あらゆる意味で悪化したことの結果に他ならない。この点では、他の作目と比べて畜産は際立っていた。もちろん、生産者や行政サイドが何もせずに手をこまねいていたわけではなく、逆に考え得るあらゆる手立てを尽くしたことは認めなければならない。
 そこで第二に、畜産の振興策をみると、『事務概況』や『札幌市の農業』を一瞥しただけでも、需要サイドのニーズに的確に対応して、畜産業の生産・流通体制のレベルアップを図るべく、多数の事業が実施されたことを直ちに理解することができる。主要な事業の名称をあげれば、大づかみにいって畜産振興事業(共進会・共励会・品評会、畜産経営改善費貸付事業、畜産経営総合診断事業、草地更新改良事業など)、家畜防疫事業、畜舎公害対策事業(畜舎衛生対策事業、畜産業転業費等貸付事業など)といった三つの柱から成り立っていた。
 第三に、これら三本柱のうち畜舎公害対策事業は、畜産経営環境悪化の典型的な要因であり、ある時期大きな社会問題となった公害問題に対応する事業であったことから、ここで取り上げないわけにはいかない。昭和四十年代後半以降、畜舎から発生する悪臭、ハエ、汚水などに対する付近の住民からの苦情が多く寄せられるようになった。その対策として、ひとまず畜舎衛生指導事業により、各種共励会などを通じて畜舎環境の整備改善の技術指導や啓発を図るとともに、とくに市街化区域内の畜舎の衛生管理について重点的に巡回指導を実施したが、根本的な解決には至らなかった。
 その際に、いわば切り札として期待されたのが畜産業転業費等貸付事業であり、本事業は市街化区域内の畜産公害を除去し、生活環境の保全を図るべく、畜産業を転廃業ないし調整区域へ移転するものに対して資金の一部を貸し付けたものである。昭和四十七年から平成五年までの間に七三件の転廃業ないし移転が実施されたが、何といっても養豚業の件数が多かったことが目立っており、市街化区域内における養豚業が急激に減少した事実もうなずける(表56参照)。
表-56 畜産業等転業貸付事業による転業移転件数の推移
年度総数酪農養豚養鶏
昭47431
 4819(5)19(5)
 4977
 501091
 515(2)4(2)1
 52
 5333
 542(1)1(1)1
 553(1)2(1)1
 563(1)12(1)
 5711
 583(2)2(2)1
 593(1)1(1)11
 60
 612(2)2(2)
 6211
 63
平 1
  22(2)2(2)
  33(1)2(1)1
  4
  5211
合計73(18)14(10)50(7)9(1)
札幌市の農業』各年による。( )は移転件数である。

 第四に、作目別の動向をみていく余裕もないので、その代わりに畜産全体の基本的な動向をみておきたい。作目別、時期別にみてかなりの変動や違いがあるから、一緒くたに論じられない部分があることは当然であるが、それでも作目ごとの違いを超えた基本的な動向をうかがうことは出来ると思う。
 それは都市化による各種の公害問題、生産者の高齢化、配合飼料や粗飼料、石油などの値上がりによる生産費の高騰、生産過剰基調が続いたことに基づく畜産物価格(乳価・豚価・卵価)の長期的低落傾向、さらに国際化という名の貿易自由化に伴う乳製品や牛肉、豚肉輸入量の増大など多くの要因が積み重なって悪化した経営環境の下で、酪農家・養豚家・養鶏家は、飼育管理技術の改善や経営管理の合理化を進めつつ、品質や生産性の向上、経営体質の強化に努力してきた点では、作目の違いを超えた共通性を持っていたと言えるからである。