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『男女共同参画さっぽろプラン』

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 各種改正法令が施行された平成十一年(一九九九)六月、男女共同参画社会基本法が衆参両院全会一致で可決された。男女平等推進政策のいわば理念法の成立である。十四年十月市議会で「札幌市男女共同参画推進条例」が、「北海道男女平等参画推進条例」(平13)に次いで可決・制定された。名称を「平等推進」とするか「共同参画」とするか、札幌市男女共同参画推進懇話会や市民公聴会で激しい議論があった。
 女のスペース・おん札幌地区連合女性委員会日本婦人会議札幌支部など七女性団体の八項目の陳情や民主党などの修正要求の結果、雇用、家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス 以下DVと略す)、審議会などの規定に一定の前進がみられた(おん通信 一一三号 平14・10・31)。北海道平和婦人会新日本婦人の会札幌協議会も、名称及び前文に「男女平等推進」を明記した条例の制定を請願した。
 市の条例は「男女平等の達成にはなお一層の努力が必要」とし、男女が「①性別にとらわれず能力発揮の機会確保 ②社会制度や慣行によって直接的にも間接的にも差別されないような配慮 ③政策、方針等立案決定への共同参画 ④家庭生活での共同責任 ⑤女性の性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の生涯にわたる尊重」が保障されることを基本理念とした(第三条)。
 条例に基づいて『男女共同参画さっぽろプラン』(平15 以下『プラン』と略す)が策定された。いわば第三次女性計画である。『プラン』は計画策定の背景として少子化・高齢化の進行、家族形態・就労環境の変化をあげ、「第2次女性計画」の検証を踏まえ、「第四次札幌市長期総合計画」の個別計画として位置づけられた。
 『プラン』の基本目標は次のとおりで、ⅡとⅢが重点課題とされた。
 Ⅰ あらゆる分野で男女共同参画の視点を反映させるための環境づくり
 Ⅱ 女性の経済的・社会的自立の促進
 Ⅲ 男女の人権の尊重
 Ⅳ 男女共同参画の視点に基づく教育・学習の充実
 Ⅴ 総合的な取組に向けた推進体制の整備・強化

 二次にわたる女性計画実施の間に、女性登用がどう進捗したかまとめたのが表41である。十五年三月、一〇一の審議会中女性一人の会合が一五、いまだ女性ゼロの会合が九つ(その中には救急医療、道・市公立学校教員採用に関する協議会など)、審議会委員の登用率は国や道を上回ってきたが、今後の目標値を四〇パーセントに設定した。
表-41 女性の登用
1 札幌市の各種審議会委員の女性比率
年度昭59昭61昭63平2平4平6平8平10平12平14
登用率(%)10.49.611.013.616.217.618.215.221.826.6
『「札幌市女性のための計画」事業概要及び推進結果』『札幌市の男女共同参画施策の推進状況』による。
民生委員・裁判所調停委員は含まない。平成5年までは6月1日、以後は4月1日現在の数字である。
10年より法令・政令・条例による審議会等に加えて要綱設置の附属機関まで拡大した。
 
2 札幌市女性職員数及び登用状況
年度昭59昭61昭63平2平4平6平8平10平12平14
女性職員数2,1402,1802,2382,3262,3382,4382,5752,6862,7782,916
比率(%)20.020.020.220.520.620.921.522.223.124.3
女性役職者数118121130149186207232272292328
比率(%)5.75.75.86.27.27.17.58.48.99.6
『「札幌市女性のための計画」事業概要及び推進結果』『札幌市の男女共同参画施策の推進状況』による。
昭和59年度は8月1日、以後は4月1日の数字である。教員、現業職員を除く。
 
3 札幌市女性職員の管理職人数と比率(平成12年4月1日現在)
 事務職技術職合計
女性比率(%)女性比率(%)女性比率(%)
局長クラス27.7026.5
部長クラス21.81218.5148.0
課長71.9127.1193.5
係長535.011419.616710.2
平成12年度札幌市男女共同参画推進懇話会第1回会議資料による。
企業局、消防局、病院関係、教員、技能職員は除く。
 
4 札幌市立学校女性職員の管理職人数と比率(平成11年5月1日現在)
 小学校中学校高等学校
女性比率(%)女性比率(%)女性比率(%)
校長136.344.10
教頭125.755.215.9
札幌市男女共同参画推進研修会(平成11年10月22日)市教委提供資料による。

 『プラン』は、札幌の特性として女性の就労環境の厳しさを指摘した。その労働力率は四五・二パーセントで、二〇代後半から三〇代の育児期に落ち込むいわゆる「M型カーブの底」と共に全国より低い。しかし条例や計画策定の参考にされた「市政モニター調査」(平12)や「男女共同参画に関する市民意識調査」(平13)で、「男は仕事、女は家庭」「育児終了後再就職」という意識は減少傾向にある。子育て環境整備として育休の有給化や、行政に保育・介護サービス充実を希望する割合は高いが、「職場で性別によらない能力主義的登用推進」「男女平等意識を育てる学校教育」など必要とする意識は強まっている。
 日教組は昭和四十九年(一九七四)に「学校教育の中で男女平等の理念が空洞化している」と指摘し、五十二年から全国教研で「女子教育問題」の討議を始め、平成八年「両性の自立と平等をめざす教育」分科会に改称した。北教組も各段階教研の女子教育問題分科会などで、教科書の点検、中学家庭科・技術科の共学、保健体育混合授業の試みなど交流してきた(北海道の教育 第36集)。高校家庭科の男女共修は、教育課程の改定により六年から全面的に実施、予想よりも平穏に、充実した授業が展開された(北海道の教育 95年版)。女性学の講義も北海道大学での開講(昭59 共学の国立大学では最初)を初め、道内大学・短大においてふえている。

写真-8 家庭科の男女共修
『啓成高校新聞』(平5.7.27)より。

 『プラン』の基本目標の下には基本的方向一九項目、主な施策三七項目が示されている。そのうち、Ⅱに関わって「男女共同参画の推進に積極的な事業者の表彰 家族従業者に対する実態調査」、Ⅲに関わって「メディア・リテラシーの育成」、Ⅴに関わって「計画の年次報告書の作成 計画に対する適切な評価方法の検討」等は新規事業である。
 特に「計画に対する適切な評価方法」については十六年三月、札幌市男女共同参画審議会で三九の指標項目を設定した。審議会や市職員管理職の女性登用率の他、市職員や企業男性の介護・育児休暇取得日数、ホームヘルパーの男女別比率、新卒採用者・就労形態別男女比、DV被害の相談件数と緊急一時保護施設の設置数、企業のセクハラ規約の策定率、短大・大学・大学院への男女別進学率などが提起された(札幌市男女共同参画審議会会議録)。
 日本において、女性の地位を示す人間開発指数(平均寿命、教育水準など)とジェンダーエンパワーメント指数(政治や職業上の地位)の差が異常に大きいことは、国際的にも問題視されている。さらに近年国内で夫婦別姓や、ジェンダーフリー(固定的性別役割からの自由)教育へのバックラッシュ(逆流)が激しい。こうした中で市条例に審議会委員の公募や「片方の性が四〇パーセントを下回らないよう配慮する」規定が盛り込まれ、計画評価の指標項目も設定されたことから、『プラン』の着実な推進が期待される。