市教委は、市民の健康づくりやスポーツ活動の実態調査を進め、札幌市のスポーツ振興計画づくりへと向かった。昭和五十四年には『市民の健康・スポーツ活動に関する調査研究報告書』(調査時期は昭和五十二年、以下五十二年調査)がだされた(同時期以降にだされた市民スポーツに関する調査報告書は表12にまとめた)。また、五十五年四月二十四日、市教委より審議会に対し「札幌市における体育・スポーツの普及振興に関する基本方策について」が諮問された。審議会は、専門委員会を設置し、五十六年五月二十一日、答申「札幌市における体育・スポーツの普及振興に関する基本方策について」をまとめた。答申は、現状と課題を整理した上で、健康教育、体育・スポーツ施設、指導者、組織、行事、広報活動に関する施策を提言した。
表-12 市民スポーツに関する調査報告書等一覧 |
発行年 | 報告書等の名称 | 調査時期 | 編者 |
昭53.3.31 | 『学校開放事業10年のあゆみ』 | 札幌市教育委員会 | |
昭54.2.28 | 『市民の健康・スポーツに関する調査研究報告書』 | 昭和52年 | 札幌市民健康・スポーツ調査研究会 |
昭56.5.21 | 「札幌市における体育・スポーツの普及振興に関する基本方策について」答申 | 札幌市スポーツ振興審議会 | |
昭58.3 | 『昭和57年度札幌市における体育・スポーツ振興組織の活動実態調査報告書』 | 昭和56年 | 体育指導委員会 |
平 1.8.31 | 『市民の健康・スポーツ活動に関する調査研究報告』 | 昭和62年 | 札幌市健康・スポーツ調査研究会 |
平 3.3 | 『札幌市民の生涯スポーツ・レクリエーションの樹立に向けて―中高年のスポーツ、レクリエーションプログラム―』 | 平成2年 | 札幌市スポーツ振興審議会 |
平 8.3 | 『市民の健康・スポーツ活動に関する調査研究報告』 | 平成7年 | 札幌市健康・スポーツ調査研究会 |
平11.7 | 『地域スポーツ振興に関する基礎調査報告書―地域スポーツ指導者における現状と課題―』 | 平成10年 | 札幌市教育委員会生涯学習部スポーツ課 |
平13.3 | 『市民のスポーツ・レクリエーション活動に関する調査研究報告書―ファミリー・スポーツ振興をねらいとして―』 | 平成12年 | 札幌市健康・スポーツ調査研究グループ |
なかでも、体育・スポーツ施設については、のちの施設整備計画の骨格をなしたと考えられる。答申が提言した「圏域に応じた施設の種別、機能別にみた配置」とは、①近隣住区(小学校区)、②地区(中学校区)、③地域(区)、④全市の四つの重層的な圏域(場)に、それぞれ①住民の日常的な健康づくり、コミュニティづくり、②組織化されたクラブ、グループ、③区民の競技スポーツ、④全市的競技会、専門的競技スポーツといった機能を対応させるものであった(表13参照)。近隣住区、地区にあっては、学校体育施設の全校開放をめざした計画的な推進、コミュニティづくりの観点から図書室や各種教室の開放、中学校の新改築時には区体育館を補完し生徒や地域住民が多目的に利用できるよう重層体育館とすることが述べられた。また地域施設としての区体育館には、健康相談室等を設け、区民の健康・体力づくりに関する総合的指導を可能にすること、将来の分区を見据えて、分区された場合には少なくとも一区一体育館となるよう設置することが明記された。さらに、屋内温水プール、屋内アイススケート場についても民間施設とのバランスや種目特性を考慮し、水泳・スケートに両用できる施設の一区一館配置が必要と述べている。全市的施設の整備については、屋内総合体育館が中央体育館のみであることから、各種大会が実施できる総合体育館の整備、屋外スポーツ施設として冬季スポーツ施設の拡充が求められた。わけても道立体育施設の整備が他の県庁所在都市に比べ遅れていることから、国際、全国大会が可能な屋内外の総合体育施設建設を道に働きかける必要があるとした。
表-13 札幌市体育・スポーツの体系化(答申より) |
地域段階構成 | 施設の種類 | 機能 | 管理・運営 | ||
ねらい | 主な対象 | 指導者 | |||
近隣住区 | 小学校体育施設 児童公園 近隣公園 その他 | 近隣スポーツ活動 ・コミュニティづくり ・健康・体力つくり ・グループづくりを中心としたスポーツ活動 ・スポーツ教室(グループづくり) ・その他 | 初心者 | 振興会、クラブ・グループの指導者 地域スポーツ指導員 体育指導委員 | 住民組織による自主運営 |
地区 | 中学校体育施設 近隣公園 地区公園 その他 | 地区スポーツ活動 ・コミュニティづくり ・健康体力づくり ・グループ・クラブのスポーツ活動と交流 ・その他 | 初・中級者 | ||
地域 | 区体育施設 地区公園 運動公園 その他 | 地域スポーツ活動 ・コミュニティづくり ・クラブ・グループの交流 ・スポーツ教室 ・健康・体力つくりの総合的指導 ・その他 | 中・上級者 | 競技団体指導者 体育指導委員 行政職員(専門職) | 行政または部分委託 |
全市 | 全市体育施設 運動公園 総合公園 都市緑地 その他 | 広域スポーツ活動 ・全市的競技会・研修会 ・諸外国、他都市との友好親善競技会 ・各種普及事業 ・その他 | 上級者 競技者 |
ともあれ、本格的な実態調査を基本に据えた本答申は、市初の包括的スポーツ振興計画といってよく、これに基づいた諸施策は跛行的に進展していった。その焦点は、市民レベルでの身近なスポーツ活動、健康づくりの促進(学校開放、指導者養成、地区スポーツ行事)に向けられていたといってよい。
市民の健康・スポーツ活動の実態把握は、昭和六十二年、平成七年に行われ、それぞれ平成元年、平成八年にとりまとめられた(以下、昭和六十二年調査、平成七年調査)。市では、これらのデータをもとにスポーツ振興のあり方が検討されてきている。昭和五十二年、昭和六十二年、平成七年調査から、市民スポーツ活動の推移をみると以下のことがわかる。過去一年間のスポーツ実施の有無では、「ある」とするものが七〇・〇パーセントと昭和五十二年(六四・〇パーセント)に比べ増加していること、とくに女性の実施率が五一・三パーセントから六四・三パーセントへと延びたことが報告されている。また年齢別では加齢に伴い実施率が下がり、とくに女性で六〇歳以上になると極端に低下することも報告されている(昭和六十二年調査)。実施率が増加する一方、その頻度は総じて変化がなく、必ずしも日常生活における運動やスポーツの定着率が高くないことも示されている。これらを受ける形で提出されたのが『札幌市民の生涯スポーツ・レクリエーションの樹立に向けて―中高年のスポーツ、レクリエーションプログラム―』(平3)であった。また、現行制度の充実を図るために地域スポーツにおける指導者の問題(平11)やファミリースポーツに焦点を当てた調査報告(平13)も提出されている。