『地震後世俗語之種』の諸本

原本
 永井善左衛門幸一の自筆本で、永井家に伝えられています。永井家文書として長野市指定有形文化財となっており、『善光寺大地震図会』の書名で翻刻されています。
信濃教育会本
 ここに公開している本です。別に記述します。
国立国会図書館本
 国立国会図書館が収蔵する写本で、古典籍資料(貴重書等)としてインターネットでも公開されています。「地震後世」の部分は角書(つのがき)であるため、書名は『俗語之種』となっています。
真田宝物館本
 長野市松代町の真田宝物館が収蔵する写本です。真田宝物館本と国立国会図書館本は共通点が多く、親子関係にあると思われます。
 
信濃教育会本
 長野高等女学校の初代校長、渡辺敏(はやし)(1847―1930)が収集した「長野史料」の一部として、信濃教育会の信濃教育博物館に、『驚天動地録』の書名で収蔵されています。この書名は特異ですので、このアーカイブでは一般的な『地震後世俗語之種』を用いています。この写本を書写したのが芹田村荒木(長野市若里)の二川亭柳霞であることは、1―24の記述から分かります。この人物についての詳細は不明ですが、郷土愛を持った人物らしく、原本にはない丹波島渡船場の北側の図(1-23・24)や、新田町・石堂の図(1-101)を新たに付け加えています。これらもまた貴重な資料です。
 『地震後世俗語之種』の原本は12冊から成っていますが、信濃教育会本はその第1冊から第7冊までを2冊にまとめてあります。原本の第1冊から第5冊まで(正編)が信濃教育会本の第1冊に、原本の第6冊と第7冊(後編)が信濃教育会本の第2冊に当たります。原本の第8冊以降は資料集なので、信濃教育会本では割愛してあるのでしょう。国立国会図書館本や真田宝物館本も、同様に原本を第7冊まで書写しています。ただし原本を翻刻している『善光寺大地震図会』は、第6冊・第7冊の順序が入れ代わっているので、注意が必要です。
 信濃教育会本の魅力は、原本の絵を細部まで正確に再現しようとしていることです。むしろ原本よりも細密に描かれています。その点、国立国会図書館本の絵は粗さが目立ちます。また真田宝物館本の絵とともに、独自の表現が多いようです。この2本は同系統です。信濃教育会本には、しばしば欄外に「此絵原図ニ多少増補シタル所アリト思ハルヽヲ以テ之ヲ標ス」(1-31)、「多少原図ト異レリ」(1-59)といった注記が見られます。これは渡辺敏が記入したと思われますが、原本との異同に注意を払っていたことがうかがえます。